新・内海新聞112号

【靴磨き屋さん顛末記②】

〔前回よりの続き〕
女性専用の訪問回収型靴磨き靴修理サービス「フェアリーテール」はスタートしました。
スマホを使ったオーダーと決済方式を採用。
回収エリアは郵便番号100-0005。つまり丸の内周辺です。
システムはできましたが、じっと来客を待つ仕事。どうもじれったい。
もっともっと知名度を上げなければ。
知り合いのツテを頼って、無料トライアルをしてもらったり、お友達紹介制度で口コミを期待したり。
少しずつ利用者は増えていましたが、まだまだ損益分岐を超えません。
靴の回収に行ってくれるコンシェルジュ達は、皆女優さんや声優さん達ですがまだまだ無名の人達。アルバイトに明け暮れる毎日。でも、みんな底抜けに明るく助けられました。時間の合間に舞台のセリフの稽古をしたり、発声練習をしたり、大女優のモノマネをして笑わせてくれたり…
暇でも楽しく時間は過ぎて行きました。
もう、こうなったらタレント事務所でもするか!なんて話になったり、夜間は近くで女優BARという店舗をオープンして二毛作化に進むか?とか、次の展開アイデアは止まりません。
女優さん達、全員ついて行きます!と心強い。
結局、事務所を改造して通常の靴修理の店舗をオープンすることになります。
ビルの9階までエレベーターで上がってもらうことになります。表の道路に大きめの看板を立て掛けましたが圧倒的に不利です。
だだ、中央区京橋には靴修理店が1つもなく、真空地帯だったことは幸いしました。
ビルの最上階の9階にある靴修理店なんてあまり聞いた事がないので、お客様は恐る恐るやってきます。
9階のドアを開けると、美人の女優さんばかり。
「ここ、靴の修理屋さんですよね?」
いつもこの質問から始まります。
訪問回収型サービスと店舗来店型サービスのハイプリッド方式となりました。
店舗を始めてから2ヶ月ほど経過したころ、ある不思議なことに気付きました。
店舗に来られるお客様に共通点があったのです。
なんとそのほとんどのお客様は生命保険会社の外務員だったのです。
つまり生保レディーです。
確かに生命保険会社の本社は丸の内周辺に集中しています。
2時過ぎになると必ず各社2~3人でやってきます。靴の修理が終わるまで事務所の中で、コンシェルジュ達とワイワイ楽しそうに時間を潰しています。靴の修理がなくてもやって来て遊んでいます。
クッキーと紅茶を用意して、まるでラウンジです。
日本生命や明治安田生命、第一生命と会社は違っても、皆仲良く情報交換の場になっていました。
生保レディーは、12時から13時までのお昼休みの時間が勝負で担当企業を訪問して保険勧誘です。それが終わった14時以降は行く場所がなくなります。わが社は会社の近くのビルの中にあり、まるで隠れ家です。時間潰しにうってつけだったのかもしれません。
ある日、三井生命の女性が「ちょっと相談があるのですが…」と私のところにやってきました。
「ウチの支店長に会って欲しいのですが、ご都合いかがですか?」
どういうご用件ですか?
「支店長がお願いしたい事があると…」
私は、保険の勧誘だなと思いました。
翌日、三井生命の支店長がやってきました。
そしてその話というのは保険の勧誘ではありませんでした。
「ウチの支店の生保レディーは約100名います。彼女達のほとんどが外反母趾で足や靴のことで悩んでいます。生保レディー達の靴のケアをお願いできないだろうか。会社としては、お金は出せないが、支店に自由に出入りしてもOK。支店長公認のもと朝礼で皆に紹介します。それでご協力いただけないだろうか?」
意外なお誘いでした。
もちろん私は喜んで承諾しました。
後日、コンシェルジュの明日香さんと一緒に三井生命の支店をたずねました。朝礼が行われていました。その場で支店長に呼ばれ我々の紹介があり、それぞれ個人の責任で自由に使うようにと話していただいたのです。
すでに何足か袋に入れて待っている方もいて、皆、靴の回収を楽しみにしていたのです。
コンシェルジュたちは毎日三井生命に訪問して、生保レディーの座席を巡回して靴を回収します。
翌日に修理して磨かれた靴を持って伺い、料金をいただきます。
生保レディーのほとんどがスマホなど持っていません。
最初苦労して開発したスマホの決済システムは、結局必要ありませんでした。三井生命のビルの別のフロアーには別の支店が入っていて、それぞれに支店長がいらっしゃいます。我々が靴の回収をしているのは、三階にある一つの支店で、二階にも四階にもニーズはあるはず。それぞれの支店長に訪問回収のお願いに行きました。それは私ではなく自主的にコンシェルジュの彼女たちが行いました。支店長はニコニコしながら快諾です。二階から四階まで市場は拡がりました。ここだけで、300名の生保レディーがいます。しかし、こうなると靴の回収に回るのは結構重労働になって来ました。

そこで開発されたのが写真のような「靴修理回収箱」です。


 

 

 

 

 

 

 

 

各フロアーに一つ設置しました。中に大きめの回収袋が沢山入れてあります。利用者はこの袋の中に修理する靴を入れて、袋には自分の名刺をホッチキスで留めてもらいました。コンシェルジュたちは毎日昼過ぎに伺い、箱から修理する靴の入った袋を回収、翌日の朝10時にお持ちするというパターンです。
回収箱の中に靴が入っているか行く前に分かるように、箱の内部にネットワークカメラを設置。会社のWi-Fiをお借りし、事務所からスマホで靴の有無を確認できるようにすれば無駄が省けます。
こうなると営業のパターンが固まりました。
靴修理の店舗にやってくる生保レディーに対して回収箱を置かせてもらえるよう支店長に頼んで欲しいと勧誘する営業です。
次に決まったのは丸の内にある明治安田生命でした。同時に二つの支店が決まりました。
第一生命はどうしても導入して欲しかったのですが、なかなか首を縦に振ってくれません。9月に支店のレイアウト変更があるのでそれ以降に検討するが、導入の確約はできないと…
そのうちに、日本橋の日本生命の支店に導入が決まりました。
その事を、第一生命の支店長に伝えると、速攻で翌週から導入OKの返事がでました。
まさにこの業界は横並び。かつて経験した通りです。
結局、日本生命、第一生命、明治安田生命、朝日生命、富国生命、三井生命の複数の支店への回収箱の導入が決まりました。
まだまだ、伸びる余地があります。
しかも、支店長からのアドバイスで各支店と交渉しました。
それはこういうことです。
「支店長決済で進めるのが良い。しかも決済は生保レディー個人とあなた達の間での自己責任にする事。何故なら、本社を通すと、話はすぐに大きくなるが、それらを管理する関連会社を通す必要があり、売上のいくらかは手数料として納めることになるので、支店長決済にして、数多くの支店営業所を攻略した方がポテンシャルは大きくなるはず。」
一言で言うと、『回収箱を置く』というビジネスモデルです。
この辺りで私は少し飽き始めていました。仕事がルーチンになったからです。
アルバイトたちで業務が回ってしまいます。
私の仕事がなくなりました。
ある日、ある勉強会に参加しました。そこでKさんという宝石鑑定士の方と出会いました。彼はユニークな方で、テレビによく出演されていました。
出品された宝石の値段をタレント達が当てるというバラエティ番組で、本当の価格の査定をするという専門家として出演されていました。
「靴の訪問回収ですか!!それはすごい!」
私の話を聞いてすごく感動していました。
そしてこう言われたのです。「靴が回収できるなら宝石も回収できますよね?」…と。
一緒に良いビジネスができそうですよ、とも。
毎日コンシェルジュ達が生命保険の事務所を訪問しますが、いつも裏口から入ります。すると裏口の通路には日替わりで色々な業者が店を出しています。
靴を売っていたり、スカーフやアクセサリーだったり、健康グッズや健康食品。中でも一番多いのが宝石販売でした。
結構高額なものを売っています。
お客様は生保レディーです。
年配の生保レディーの一番の趣味は宝石なのです。昔からのしっかりしたお客様を持っていて、ある程度高所得で安定している。
そこで出来上がったメニューが「宝石のクリーニングサービス」です。
指輪が中心なのですが、2500円でクリーニングします。
靴回収で訪問した時に、指輪のクリーニングのオーダーも一緒にもらってきます。
それを宝石鑑定士のKさんのところでクリーニングしてもらいます。
普段、指輪を付けっぱなしなので、静電気を帯びてホコリが蓄積しています。
これをプロの手にかかると、新品同様に蘇るのです。
翌日、綺麗になった指輪をお持ちするととても感動されます。しかし、ここからが勝負です。
宝石鑑定士Kさんが、その指輪にピッタリのイヤリングかネックレスを選び、そのポラロイド写真を撮ります。
そして綺麗になった指輪をお届けした時に、
「うちはフジテレビの〇〇番組に出演している宝石鑑定士のKさんと契約していまして、そのKさんが選んだ、その指輪にぴったりのネックレスがこのポラロイドです…」とオススメするのです。
これで、だいたい20万円~30万円の価格帯です。
ほとんどが興味を持って実物を見たいと言われます。
これで、その後100万円くらいのお買い物につながるということでした。
以上の流れがKさんの考えた営業シナリオです。
宝石の魔力というのか、どんどんコレクター意欲を掻き立てられエスカレートして行くのだそうです。
靴の方がフェアリーテール。

 

 

 

 

 

 
宝石の方がフェアリージュエリー、という二本柱の構成に出来上がりました。
第一生命の営業部長からは、各支店の会議室を提供するので一緒に何かイベントができないだろうか?と提案を持ちかけられました。
それぞれの生保レディーが受け持っている契約者とそのお友達向けに、宝石鑑定士のKさんの講演をしてもらいたい。番組の裏話的な。
そして、持って来られた指輪をその場でクリーニングし、御社のスタイルの営業をしてもらって結構。第一生命は一緒に来られたお友達に向けて保険の有効性の講演をさせていただくという感じです…
マーケティングとは、
売り手が買い手にいがに近づくか…ということ。
一人の生保レディーの不便を解決し、さらにその先の楽しみを提供し夢を広げてゆくこと。
ということなのかもしれません。
ほんの小さな思いつきでしたが、そこを極めて行くと、気づかなかった大きなポテンシャルが潜んでいるということを発見したことが大きな収穫でした。
(本プロジェクトは、2014年4月30日をもって全て終了致しました。)