新・内海新聞119号

【ハレとケ】

以前、概要を書きましたが、今回はもう少し詳しく「ハレとケ」を書きます。
ハレとケは良く聞く言葉ですが、はっきりとはわからない。ハレとケは、日本人の生活の中に確りと定着した一つのリズムです。柳田國男が定義したと言う説もあります。
まずハレ。fareです。
ハレとはお祝い事の時に良く使われる言葉です。
ハレの日、ハレの門出など。滅多になく、きわめて晴れ晴れしいこと。つまり非日常の行事です。
この、滅多にない日のために、長い時間をかけて準備します。そして、そのハレを様々な人たちとともに祝う。実に集団的です。
次にケ。Qeです。
この言葉は殆ど普段では使われなくなりました。
ごく普通の繰り返される毎日のこと。
つまり日常の平凡な行事です。
普段の生活の大半は「ケ」であり、たまにやってくるとても楽しい誇らしい事が「ハレ」と言う事です。
農業国家である日本では、夜明けとともに鍬を持って野良仕事に出かけて、夕暮れとともにカラスと一緒に帰宅。雨の日も風の日も、その行動は変わらず毎日毎日同じ事の繰り返し。これが「ケ」。個人的行動の積み上げです。
ところが、秋の収穫が終わったところで、村祭りが準備され五穀豊穣を感謝する。山車が出て、ご馳走が作られ酒を振る舞う。これがハレ。または、婚礼が行われる時は、村を挙げて全体でお祝いをする。これも「ハレ」。
退屈な日常の中にたまに竹の節のようにハレの行事がやってくる。


以前、黒澤明監督が亡くなった後、黒澤組が製作した「雨あがる」と言う映画がありました。
歌謡曲(ルビーの指輪」が大ヒットした寺尾聡さんと宮崎美子さんが夫婦役で出演しています。ある大きな川が長雨で増水して渡る事ができず、手前の安い宿屋に偶然居合わせた旅人たちが何日も雨が止むのを待つと言う映画。何日も何日も、窮屈な宿の中で大勢の旅人たちが詰め込まれ、ストレスが溜まり、自分のものが盗まれたと喧嘩が始まる。それを見かねた寺尾聡扮する剣豪の浪人が幕府に禁じられている賭け試合で道場破りをしてお金をつくり、贅沢な食材や酒を買い、宿屋の商人や農民の泊まり客に振る舞い、大いにストレス発散をしてやる。飲めや歌えの大宴会が始まる。喧嘩していた人達も笑っている。その中にこんなシーンがある。
俳優の松村達雄さん扮する説教節の爺さんが、「あ~、こんな日が年に一度もありゃあ、どんな苦労でも耐えられるのに…。」と、ポツリと言う。これこそ「ハレとケ」です。辛いケの生活が続いても、たまにハレがあると、また頑張れる。ハレというのは、日本人にとってとても大切な節目なのです。
このハレの前には日本人は無抵抗。もう全面降伏なのです。さて今の日常生活の中でも「ハレとケ」が存在します。
特に「ハレ」は、時代が変わっても同じように大切な日日常の行事です。
この現代の「ハレ」を分析すると大きく分けて7つあります。
この7つの「ハレ」は、ほとんどの日本人が同じようなことを考え、同じような行動をとるのです。
ここで、話が少し横道に逸れますが、「けもの道マーケティング」というものがあります。
例えば猟師が鉄砲を担いで山奥に入っても、そう簡単に獲物は獲れません。けもの達の方が、土地勘があり、すばしっこく、そう簡単に姿はあらわしません。そんな時、猟師はけもの道を探します。
けもの道とは、その山に住む鹿や熊や猪が毎日毎日使う安心できる抜け道です。けもの達が安心して歩くけもの道。そのけもの道に罠を仕掛けるのです。
高確率で仕留める事ができるそうです。
この7つの「ハレ」は文房具屋さんのご祝儀袋のコーナーの区分けです。葬式は毛色が違うように思うかも知れませんが、これもご祝儀です。
話を戻すと、「ハレ」に関しても、無条件の絶対服従の行動だとすると、そこに何かの仕掛けを作ると、その反応は高いということになります。この7つの「ハレ」とは、日本人の人生の中で大切な節目です。
①誕生 ②進学③ 就職 ④結婚 ⑤住宅 ⑥定年 ⑦葬式の7つの「ハレ」です。
まず、①誕生ですが、誕生する本人ではなく、その両親ということになります。「どうか健康で生まれてほしい。」という思いが何よりも最優先です。
次に②進学。今では保育園や幼稚園から受験があるようですが、大学受験まで続きます。この時の受験生の志向は、「合格」です。
③就職。これは新卒就職です。
「内定」に向けて学生達が動き回ります。
④結婚。これは結婚生活ではなく、結婚披露宴です。「披露」です。


女性が中心に回りますが、この瞬間のために時間とお金が費やされます。
⑤住宅。これは、改めて「家族」を意識する時期となります。
家族の部屋だったり、家族が集まるリビングだったり部屋を通じて家族を意識する時期です。
⑥定年。「第二の人生」を意識する55歳あたりからこの時期になります。
⑦葬式。これは、人生の「記念」です。ここは、新しいことを創造することより、これまでの人生の振り返りとして死を意識し始めます。
これらの「ハレ」の時期は、大体の年齢は想像がつきます。
大体の時期が判り、且つ求めている志向ニーズが判る。
つまりここに人生のけもの道が存在する。
誕生には健康の為に投資をし、受験には合格の為に投資をし、就職には内定の為の投資や行動をし、結婚には披露に投資をし、住宅は家族に対する意識が上がり、定年には今までできなかった事への投資や第二の人生へのニーズの高まり。葬式は、死を意識する事で、残りの人生への健やかに過ごすという生活習慣への意識や、自分自身の人生への振り返り。
罠を仕掛けるというと言葉は悪いですが、求める人に求めるものを与える事は重要。
特に「ハレ」の時期は、金銭感覚が麻痺する。安売りや値切りという事がほとんどない。
これを「ハレの日マーケティング」と名付けました。
これまでの様々なビジネスモデルをこれら「ハレの日」のタイミングに合わせてゆくことで新たな市場が生まれる可能性があります。

新・内海新聞118号

~トラブル回避の秘策~

かなり、昔の体験談です。
その頃は、まだ就職支援のテレマーケティングが業務の中心でした。テレマーケティングは、トラブルが付き物です。音声だけで情報をやりとりする訳ですから、言い間違い、聞き間違い、勘違いが必ず起こります。
テレマーケティングの内容は、新卒予定の学生さんに、就職セミナーの案内を電話で行う業務です。
少し余談になりますか、あるエピソードをお話しします。
この事業をスタートさせた頃、人材採用の専門家に指摘されたことがあります。電話なんかで人材採用など不可能。
就職雑誌などで興味のある学生の資料請求ハガキを母集団として数多く集め、そこから厳選し上澄みだけを絞り込む。これが良い人材を採用する秘訣だ……と。
しかし、それができるのは社名の通った有名企業だけの話。一般企業は無理、そう感じていました。
採用側から発想するのではなく、学生の目線で企画を進めるのが大切と考えました。
就職活動を始めた学生さんは当初は何もわからず、勢い業種も関係なく手当たり次第に応募し、ことごとく落とされ絶望の淵に立たされます。
第一志望、第二志望、第三志望…第十志望あたりまで、順位がつけられています。
そのなかの、第五、第六志望あたりは、関心も低く、積極的な志望企業ではないのです。
テレマーケティングで第五、第六の位置をキープする。つまり記憶に残すという戦略のもと、頻繁に電話をします。
やがて、第一、第二、第三志望と、内定がもらえず、第五第六志望の順位が上がってくるのです。
そして、第五第六だったものが、その学生にとって第一第二志望まで上がります。その時の判断基準は、記憶に残っている企業なのです。そして、優しく手を差し伸べ見守ってくれた企業ということになります。経験上、もうこの時は、知名度や企業規模ではなく、上記のような基準が最優先されます。
結果、中小企業に向けての就職テレマーケティングは、有効であるという結論になりました。
さて、話を戻します。

テレマーケティングはトラブルが多い…という話の続きです。
どういうトラブルが多いのか?ということですが、言い間違い、聞き間違い、勘違いが多い。
企業名を間違える。
説明会の日付を間違える
説明会の会場の場所を間違える
電話する大学を間違える
などなど、ゆっくりと落ち着いて話せば大丈夫なのですが、ひとりで1日に100件200件も連続で電話を掛けるので頭が混乱してきます。しかも、電話を掛けるオペレーターは大学一年生や二年生、あるいはフリーターの皆さん。就職経験のない人たちです。繁忙期はなかなか十分な研修もできず、すぐ現場に投入することになり、こういうことが起こります。しかし、このようなトラブルが起こるもう一つの大きな要因があるのです。
むしろ、そのもう一つの要因が、多くのトラブルを誘発すると言っても過言ではありません。
それは、採用状況によってクライアントである人事部の方針が頻繁に変更になるのです。
思ったほど学生さんが集まらない、集まり過ぎた。この日のセミナーは突然社長が出席することになった。セミナー会場を変更したい。女子学生をもっと増やして欲しい。◯◯大学をもっと増やして欲しい。などなど。
これらの要望は付き物で折り込み済みなのですが、問題はその突然の依頼の方法です。
一番多いのが電話。
次が、営業を呼んで口頭で伝える。
FAXが届く。
です。
現場の作業は連日大混乱ですので、電話のメモを紛失したり、FAXを破棄してしまったり、営業が現場に伝えるのを失念したり…
また、ほかにもまだまだありました。
連日、空き時間に対策会議をしますが、必ず抜けが出るのです。
失念や紛失に関しては、連絡ノートを設置したり、FAX箱を設置したり、確認担当者をきめて、漏れがないように巡回させたりしました。
それでも、漏れは出てきます。
事故が起こってから、後から追いかけるということが多く、対症療法的なのです。トラブルが起こる前に予知する方法を考え出さねば、根絶はできない。結局、トラブル予知の方法を各自で考え発表することになりました。
しかし、それは無理でした。統計学を駆使して、傾向値を分析する…ということは机上では可能でしょうが、現場ではパターンが多過ぎて不可能です。
これまで起こったトラブルの報告書の束をいつも持ち歩き、何十回と読み返しました。
読めば読むほど頭が痛くなり、恐怖心が大きくなってきます。
これから、受注がさらに増えれば、同様にトラブルも桁が上がり、社員が疲弊して倒れてしまう。
打つ手なし状態でした。
文面を読んでいても、何もわからない。
しかし、その後このトラブルの裏にある背景を考えていなかっことに気づきました。
報告書の行間を読む必要があると思いました。
それからさらに一週間ほど読み続けていると、ある特徴を発見しました。
共通した背景を見つけたのです。
そして、そのトラブルが発生する傾向を抜き出しました。
①電話での依頼
②3ヶ月以上ブランクのあったクライアントからの再発注
③クライアントの担当者が変更
④当社の担当者が変更になった
⑤直前の変更
⑥口頭での依頼
⑦FAXだけの依頼
⑧新規顧客からの依頼
⑨当社に新人を投入した   などなど。
これらがあると、必ずトラブルが発生すると言うわけではありません。
しかし、トラブルには必ず上記のような背景があると言うことでした。
これらの項目を「ヒヤリハット項目」として、大きく紙に書き、事務所に張り出しました。
もしも、これらの現象がある場合、必ず3回確認をして上長に報告すること!と言うルールを作ったのです。
これで、トラブルが減るのか?不安でしたが、その結果、トラブル数は5分の1に大幅に減少したのです。
結果的に、トラブルを予知したと言うことになりました。
確認の作業は大幅に増えましたがトラブル発生による後ろ向きな作業ロスが、減ったことは利益拡大、信頼獲得に大きく貢献したことは確実です。
このことは、大きな教訓を与えています。
人がすることには、必ず傾向があるということです。
その人の行動には癖があり、ミスをする人は同じところで必ずミスをする。
そして、そのことに気づいていない。
それから、人は一種のリズムを持っていて、そのリズムの中で生きています。
何らかの理由で一旦リズムが狂うと、異常行動を取ってしまうことがある、ということです。
これは、様々なところでも応用が効く法則だと思います。

新・内海新聞114号

【心と身体について】

「言いたいこと」や「したいこと」と「身体」にズレが起こることがあります。
そういう時に、精神的に混乱したり、錯乱したり、情緒不安定になったりすることがあります。
心と身体は一体で、いつも同じ動きをしているということはありません。
これは今から25年ほど前の話です。
いささか時間が経っていますが、今の時代に当てはめても通じる話です。
当時、私は人材採用のアウトソーシングの仕事をしていました。時代はバブルの真っただ中。
どこに行っても人手不足で時給は急騰です。
私は、あちこちの企業人事部や商工会議所、中小企業同友会などでの人材採用の講演の依頼を請けて、全国を飛び回っていました。
東京の青年会議所からの依頼のセミナーに参加した時のことです。ある学習塾を関東地区で展開している会社の社長と出会いました。セミナーも終盤になってきたころに遅刻して来られたのでよく覚えています。
セミナーが終わってから、そのT社長は私のところに来られて「顧問になってもらえませんか?」といきなり言ってこられました。
話を聞くと、学習塾に来る子供たちは増える一方で、経営的には問題ないのだけれど、生徒が増えると先生が全く足りず、求人広告を出しても、適任者がなかなか集まらないということでした。
毎月1回T社長のオフィスを訪問し、先生の求人の現状と対策のディスカッションを2時間行うという契約で、その顧問業が始まりました。
私の知らない業界の色々な話を聞かせてもらいました。
学習塾を経営している社長は、元全共闘の学生活動家が多いのだそうです。高学歴で学生運動に参加していたので就職先が決まらず、結局自分で受験対策の学習塾を始める人が多いのだそうです。
このT社長も早稲田大学で、学生運動をしていたと言うことでした。
学習塾は都内にいくつもの教室を持ち、教材も自社開発し出版事業も展開し、積極経営をされて順調でした。
ある日、T社長は私にこんな話をしてくれました。
「時々、教室の中で癇癪を起して、大声で叫んだり、鉛筆を折ったり、ノートを破ったりする子供がいるのですよ。他の子供達も驚いてしまって、なぜそういうことが起こるのか不思議なのです。成績は結構優秀なのですよ。」
「何か気に入らないことでもあるのじゃないですか?」
「先生私もそう思うのですが皆目見当がつかないのです。今度、お母様に家庭でも同様の事があるのか聞いてみようと思います。
それから、そういう状態になる子供はその子だけじゃないのです。何人もいるのですよ。」
「困りましたね・・・」
それから半年位して、また同じような話になったのです。
「以前、教室で奇声を上げる子供がいるっていう話をしましたよね?実はなんとなく原因が判ってきたのですよ。」
T社長の話は以下の様なものでした。
ウチの学習塾に来る子供たちは、中学受験という目標を持ち、向上心が高い。
もともと地頭も良く、コツを覚えるとどんどん成績も上がってくるし、どんどん先に進んで、更に前向きになってきます。
それは、我々も臨んでいることだし、ご父兄からも感謝される事でもあります。
実は、この向上心が奇声の原因なのではないのかと思い始めたのです。
つまり、脳の思考のスピードと身体のスピードにズレが起こっているのじゃないかと・・・
具体的に言うと、たとえば漢字の書き取りをしているとします。脳は光の速度で思考が進み、どんどん先に行ってしまいます。
しかし、持っている鉛筆による筆記が遅く時間差が発生します。思考を途中でやめて、筆記が追いつくまで待つ必要が出てくるのです。
身体が脳に追いつかないのです。
自分の意識は既にずっと先に行っているのに、身体が動かず、自分の能力が劣っているのではないかと感じはじめ、そのギャップに感情が爆発してしまうのだと思います。
だから、子供達の成績をもっと上げるには、筆記用具がポイントだったのです。
筆記用具だけではなく、ノートや定規やコンパスとかの性能が重要だったのです。
凄い発見です!」
=理屈は解るのですが、具体的にいうとどういうことですか=
「はい、たとえば鉛筆やシャープペンシル。子供たちはそれぞれペンの持ち方に癖があります。お箸の様に正しく持てる生徒や、握る様に持つ子や摘む様に持つ子がいたりする。どのような持ち方でも字は書けますので問題は無いのですが、正しくない持ち方をすると、ペンを確りホールドできないので、指や手が痛くなったり、滑ってペンが傾いたりして、書きにくくなります。
また、芯が折れると言うのも同様です。リズムに乗って書いている途中で芯が折れると集中力が途切れます。
しかも、学習塾で勉強が進んでくると、問題の先を読めるようになってくるので、先の答えも予測できるようになってくる。
つまり、筆記したい事がどんどんと先走ってしまう。
しかし、その文章を書く指が動かない。手が痛い、指が痛い、芯が折れる・・・・
思い通りにいかないことで、フラストレーションが溜まり、やがて大爆発する・・・・。
こういう論理です。
だから道具は大事なのです。
弘法筆を選ばず・・・と言いますが、実は選ぶのです。」
=なるほど。しかし、どう解決するのですか?=
「たとえば、シャープペンシル。
それぞれの子供たちの指の形、骨の大きさや確度、持ち方等など全部違います。
その子供たちの手の形に合わせた握りの部分をオーダーメイドで作ってゆく必要がありますね。」
「たとえば、ペンの握りの部分を知りこんで包んで、握った時に自分の指の形に変形する。そうすれば、どんな形の手でも、どんな形の握り方でも、ペンを確りホールドし痛くならない。
しかし、まだそんなペンはありません。

 

 


あとは、定規。
線を引く時に、定規がずれて線が歪んでしまうことがあります。
これも同様です。
そんな時、定規が少しアーチ型になる様、カーブするようにします。
線を引く時、その定規を上から押すと、アーチがまっすぐになり下の紙をしっかり押し付けるので、線を引いて横からの力が加わっても、定規が動いて、線が曲がったりしない。」
=なるほど。もう他にはありませんか=
「ノートもそうかも知れません。先生が正面の横長の黒板に書いていくのに、ノートは縦長の形。これをどちらかに合わせてやれば板書のストレスは軽減されるはずです。つまり、黒板と同じように横長のノートにするのです。そうすると、黒板と同じレイアウトでノートに書き込めるのでストレスは無くなります。」
=この考え方は、他にも応用が利きそうですね=
「そう思います。社会人になってもあると思います。」
=私もそう感じました=
「たとえば料理とかも、同じじゃないかな。」
料理の腕を、道具に頼ることは当然ありますから。
良い道具を使えば、美味しくできるのは事実ですからね。」
つまり、この学習塾で「成績の上がる文房具」を製造販売すると言うことですね。

その後、この時のアイデアは、様々なメーカーから新商品として発売されていきました。

気持ちと身体のズレは色々なところにあって、非効率を起こしています。
この溝を埋める道具や商品は、また新しいマーケットを開いてゆくのかも知れません。

新・内海新聞113号

最近温泉旅館事情

 

今回は、地元ネタで失礼します。
湯河原に引っ越して約20年になります。
実家のある神戸六甲山系に風景が似ていることから移り住みました。
それは、北に山があって、南が海。近くに温泉があって、新幹線が走っていて、大都会が近い・・そんな条件で関東の地図を広げると、熱海から小田原のエリアしかなく、その中間地点の湯河原にした記憶があります。
温泉は有馬温泉と箱根が類似、海は瀬戸内海と相模湾が類似、新幹線が走っていて、近くの大都会は大阪と横浜が類似。これが情緒を安定させ精神衛生上良好ということになります。隣町に静岡県熱海市があり、千歳川が県境となっています。
熱海は徳川家ご用達の温泉で、家康がこよなく愛したことから古くから栄えていました。これは以前NHKのブラタモリで詳細を解説していました。
戦後は新婚旅行のメッカと言われました。高度成長の時代には、大型観光バスで乗り付け、旅館の大宴会場で芸者さんを呼んでのドンチャン騒ぎ。街にはバーやスナック、風俗店が並ぶ・・・そんな古典的な温泉街の発展を遂げました。しかし、今は見る影もない。
いまどき、会社から団体旅行なんて流行らない。まず女子社員が嫌がります。
旅館の構造も、大広間があって、そこで皆で一緒に食事。さらに席の順番も会社の序列そのまま。これではさらに嫌がられます。
最近は、会社の保養所もどんどん無くなってきています。格安だからといって会社の保養所に家族旅行に行ったら、上司の家族も来ていて、終日気を遣いっぱなしなどという事態は避けたい。
今のトレンドは、家族旅行やカップルでの静かに旅行です。
中でも温泉は一番の楽しみです。
しかし、大温泉旅館の男湯は大きく立派ですが、女湯は小さく設備も貧弱。これでは女性客が寄り付かないのも当然です。
一方、湯河原温泉は熱海とは対照的です。熱海の様な団体客を相手にした設備があまりありません。
谷川に沿って、小さな旅館が立ち並ぶ温泉街です。土地がなく大きな旅館を立てる余裕がありません。5部屋とか10部屋とかの小さな旅館が点在しています。
かつては島崎藤村や芥川龍之介、川端康成といった文豪が小説を執筆するために籠ったという静かでのどかな旅館街です。旅館のごひいき客も二代目、三代目と代々通い、旅館の当主も二代目、三代目と引き継がれる。代大々顔なじみということです。
しかし、最近はおじいちゃんに連れられて一緒に旅館にやってくる孫たちも退屈な田舎は避け始めています。友人と遊んでいた方が楽しいからです。
結果、どんどん客数は減っています。
特に東京近郊の温泉旅館が地盤沈下しています。
今から20年程前に、練馬から湯河原に引っ越した頃、地元の方々からいろいろ相談を受けました。
とにかく旅館街の活性化策は無いものだろうか?という内容です。
いろいろ聞いていると、面白い事が判ってきました。
まず、営業時間です。
ほとんどの旅館は、14時がチェックインです。
18時から夕食タイム。
食事が終われば20時に布団を敷きに仲居さんがやってきます。
朝7時から朝食タイムで、10時チェックアウト。
こんな流れ作業です。
しかし、この時間割だと二日間連続でお休みのサラリーマンの人以外利用は不可能です。
休みが一日しかない、あるいは分散しているようなサービス業の方々は利用できません。
総務省の労働力調査(平成16年)によると全就業者のうちの67%(4056万人)がサービス業の就業者と発表されています。この全てが、休日が分散しているとは言えないかも知れませんが、かなりの方々が不便を感じている可能性があります。
当時、地元の旅館組合の会合で以下の様なアドバイスをしたことがあります。
当時は、豪華な夕食のために板前を雇い、高価な素材をふんだんに使った、非日常のディナーが用意されていました。

しかし、客数が減少し、板前の人件費を払えなくなってくると、夕食は仕出し業者に外注する事になっていきます。
これでは、せっかく高いお金を払っている値打もありません。結果、どんどん客離れが始まります。そのような現状を聞かされました。
その時、私はもう少し視点を変えたらどうかと思いました。
豪華な食事を本当に求めているのだろうか?旅館に何を期待してやってくるのだろうか?
温泉は必須です。でも旅館での食事よりも、一緒に旅行する人たちとの時間が一番重要なのではないだろうか?・・・そう思いました。
まず、サービス営業時間を再検討する事にしました。
チェックインを従来の14時から22時にします。これでサービス業の方々でも仕事が終わってから出掛けても間に合います。
仕事が終わって、職場の友人たちと東海道新幹線に飛び乗っても大丈夫です。途中で美味しい駅弁とビールを購入。友人たちとの道中のおしゃべりを楽しんでもらいます。
駅に到着してタクシーで旅館に移動。
ゆっくり温泉につかって、リラックス。深夜まで友人たちとの談笑タイムです。
この日の夕食はありません。飲み物やおつまみは、備え付けの自動販売機でいつでも購入可能です。
翌朝は、プチ豪華な朝食が待っています。食事はこの朝食がメインです。
炊きたてのホカホカのご飯、お味噌汁は食べ放題。地元で採れたアジやキンメダイの干物などなどビュッフェのセルフサービスです。
チェックアウトは16時まで可能です。
もう一度、温泉に入ってお昼寝も出来ますし、荷物を預けて周辺の観光地の散策でも楽しめます。
これまでの旅館だと、中に入ってしまうと館内ですべて完結してしまうのですが、ゆったりした時間の中での散策は、周辺の経済活性化にも貢献します。
それぞれの小さな旅館が、朝食を準備するのが大変なのであれば、朝食専門のレストランを、旅館の共同出資でつくることもできます。
これであれば、一日しかない休日でもとても有効な時間配分が可能です。
さて、この様な平日に休みのあるサービス業とはどのようなものでしょうか?
たとえば理髪・美容店。これは月曜日がお休みのところが多いです。レストランや商店などは水曜日や木曜日の休みが多いです。
それぞれに料飲業組合や商店会などの団体が存在します。それぞれの業界の休みを調べ、その休みの前日の夜からチェックイン出来るプランをつくり、チラシやWebで案内していきます。
「飲食業界のお客様向けプラン」とか「百貨店業界のお客様向けプラン」とか仕掛けていきます。
各地域別、業界別でマーケティングを展開し、一週間の、特に日曜の夜から金曜日の夕方までの予約を取ります。土日は通常のお客様がいらっしゃるので、ここは変更なしです。
以上が、20年前に考えて提案したプランでした。しかし、これらはなかなか実行されませんでした。
ところが、最近変化が出てきました。
一泊一食プランというのが出てきました。一泊と朝食だけのコースです。
また、インバウンドの旅行客が増え、素泊まり希望の外国人旅行客が増えた事も上げられるかも知れません。
「The Ryokan Tokyo」というのが出来ました。

 

 

 

 

 

 

一泊朝食付き 3名利用で8000円/人程度
朝食もいろいろ選べるようです。
A.国産一等米の金目米使用 石焼混ぜご飯セット
B.国産一等米の金目米使用 おにぎり朝食セット
C.国産豆乳の汲み上げ湯葉朝食セット
また卒業旅行プランなどは、4名で4000円/人程度
旧態依然とした考え方では、旅館業取り残される時代になってきました。

新・内海新聞112号

【靴磨き屋さん顛末記②】

〔前回よりの続き〕
女性専用の訪問回収型靴磨き靴修理サービス「フェアリーテール」はスタートしました。
スマホを使ったオーダーと決済方式を採用。
回収エリアは郵便番号100-0005。つまり丸の内周辺です。
システムはできましたが、じっと来客を待つ仕事。どうもじれったい。
もっともっと知名度を上げなければ。
知り合いのツテを頼って、無料トライアルをしてもらったり、お友達紹介制度で口コミを期待したり。
少しずつ利用者は増えていましたが、まだまだ損益分岐を超えません。
靴の回収に行ってくれるコンシェルジュ達は、皆女優さんや声優さん達ですがまだまだ無名の人達。アルバイトに明け暮れる毎日。でも、みんな底抜けに明るく助けられました。時間の合間に舞台のセリフの稽古をしたり、発声練習をしたり、大女優のモノマネをして笑わせてくれたり…
暇でも楽しく時間は過ぎて行きました。
もう、こうなったらタレント事務所でもするか!なんて話になったり、夜間は近くで女優BARという店舗をオープンして二毛作化に進むか?とか、次の展開アイデアは止まりません。
女優さん達、全員ついて行きます!と心強い。
結局、事務所を改造して通常の靴修理の店舗をオープンすることになります。
ビルの9階までエレベーターで上がってもらうことになります。表の道路に大きめの看板を立て掛けましたが圧倒的に不利です。
だだ、中央区京橋には靴修理店が1つもなく、真空地帯だったことは幸いしました。
ビルの最上階の9階にある靴修理店なんてあまり聞いた事がないので、お客様は恐る恐るやってきます。
9階のドアを開けると、美人の女優さんばかり。
「ここ、靴の修理屋さんですよね?」
いつもこの質問から始まります。
訪問回収型サービスと店舗来店型サービスのハイプリッド方式となりました。
店舗を始めてから2ヶ月ほど経過したころ、ある不思議なことに気付きました。
店舗に来られるお客様に共通点があったのです。
なんとそのほとんどのお客様は生命保険会社の外務員だったのです。
つまり生保レディーです。
確かに生命保険会社の本社は丸の内周辺に集中しています。
2時過ぎになると必ず各社2~3人でやってきます。靴の修理が終わるまで事務所の中で、コンシェルジュ達とワイワイ楽しそうに時間を潰しています。靴の修理がなくてもやって来て遊んでいます。
クッキーと紅茶を用意して、まるでラウンジです。
日本生命や明治安田生命、第一生命と会社は違っても、皆仲良く情報交換の場になっていました。
生保レディーは、12時から13時までのお昼休みの時間が勝負で担当企業を訪問して保険勧誘です。それが終わった14時以降は行く場所がなくなります。わが社は会社の近くのビルの中にあり、まるで隠れ家です。時間潰しにうってつけだったのかもしれません。
ある日、三井生命の女性が「ちょっと相談があるのですが…」と私のところにやってきました。
「ウチの支店長に会って欲しいのですが、ご都合いかがですか?」
どういうご用件ですか?
「支店長がお願いしたい事があると…」
私は、保険の勧誘だなと思いました。
翌日、三井生命の支店長がやってきました。
そしてその話というのは保険の勧誘ではありませんでした。
「ウチの支店の生保レディーは約100名います。彼女達のほとんどが外反母趾で足や靴のことで悩んでいます。生保レディー達の靴のケアをお願いできないだろうか。会社としては、お金は出せないが、支店に自由に出入りしてもOK。支店長公認のもと朝礼で皆に紹介します。それでご協力いただけないだろうか?」
意外なお誘いでした。
もちろん私は喜んで承諾しました。
後日、コンシェルジュの明日香さんと一緒に三井生命の支店をたずねました。朝礼が行われていました。その場で支店長に呼ばれ我々の紹介があり、それぞれ個人の責任で自由に使うようにと話していただいたのです。
すでに何足か袋に入れて待っている方もいて、皆、靴の回収を楽しみにしていたのです。
コンシェルジュたちは毎日三井生命に訪問して、生保レディーの座席を巡回して靴を回収します。
翌日に修理して磨かれた靴を持って伺い、料金をいただきます。
生保レディーのほとんどがスマホなど持っていません。
最初苦労して開発したスマホの決済システムは、結局必要ありませんでした。三井生命のビルの別のフロアーには別の支店が入っていて、それぞれに支店長がいらっしゃいます。我々が靴の回収をしているのは、三階にある一つの支店で、二階にも四階にもニーズはあるはず。それぞれの支店長に訪問回収のお願いに行きました。それは私ではなく自主的にコンシェルジュの彼女たちが行いました。支店長はニコニコしながら快諾です。二階から四階まで市場は拡がりました。ここだけで、300名の生保レディーがいます。しかし、こうなると靴の回収に回るのは結構重労働になって来ました。

そこで開発されたのが写真のような「靴修理回収箱」です。


 

 

 

 

 

 

 

 

各フロアーに一つ設置しました。中に大きめの回収袋が沢山入れてあります。利用者はこの袋の中に修理する靴を入れて、袋には自分の名刺をホッチキスで留めてもらいました。コンシェルジュたちは毎日昼過ぎに伺い、箱から修理する靴の入った袋を回収、翌日の朝10時にお持ちするというパターンです。
回収箱の中に靴が入っているか行く前に分かるように、箱の内部にネットワークカメラを設置。会社のWi-Fiをお借りし、事務所からスマホで靴の有無を確認できるようにすれば無駄が省けます。
こうなると営業のパターンが固まりました。
靴修理の店舗にやってくる生保レディーに対して回収箱を置かせてもらえるよう支店長に頼んで欲しいと勧誘する営業です。
次に決まったのは丸の内にある明治安田生命でした。同時に二つの支店が決まりました。
第一生命はどうしても導入して欲しかったのですが、なかなか首を縦に振ってくれません。9月に支店のレイアウト変更があるのでそれ以降に検討するが、導入の確約はできないと…
そのうちに、日本橋の日本生命の支店に導入が決まりました。
その事を、第一生命の支店長に伝えると、速攻で翌週から導入OKの返事がでました。
まさにこの業界は横並び。かつて経験した通りです。
結局、日本生命、第一生命、明治安田生命、朝日生命、富国生命、三井生命の複数の支店への回収箱の導入が決まりました。
まだまだ、伸びる余地があります。
しかも、支店長からのアドバイスで各支店と交渉しました。
それはこういうことです。
「支店長決済で進めるのが良い。しかも決済は生保レディー個人とあなた達の間での自己責任にする事。何故なら、本社を通すと、話はすぐに大きくなるが、それらを管理する関連会社を通す必要があり、売上のいくらかは手数料として納めることになるので、支店長決済にして、数多くの支店営業所を攻略した方がポテンシャルは大きくなるはず。」
一言で言うと、『回収箱を置く』というビジネスモデルです。
この辺りで私は少し飽き始めていました。仕事がルーチンになったからです。
アルバイトたちで業務が回ってしまいます。
私の仕事がなくなりました。
ある日、ある勉強会に参加しました。そこでKさんという宝石鑑定士の方と出会いました。彼はユニークな方で、テレビによく出演されていました。
出品された宝石の値段をタレント達が当てるというバラエティ番組で、本当の価格の査定をするという専門家として出演されていました。
「靴の訪問回収ですか!!それはすごい!」
私の話を聞いてすごく感動していました。
そしてこう言われたのです。「靴が回収できるなら宝石も回収できますよね?」…と。
一緒に良いビジネスができそうですよ、とも。
毎日コンシェルジュ達が生命保険の事務所を訪問しますが、いつも裏口から入ります。すると裏口の通路には日替わりで色々な業者が店を出しています。
靴を売っていたり、スカーフやアクセサリーだったり、健康グッズや健康食品。中でも一番多いのが宝石販売でした。
結構高額なものを売っています。
お客様は生保レディーです。
年配の生保レディーの一番の趣味は宝石なのです。昔からのしっかりしたお客様を持っていて、ある程度高所得で安定している。
そこで出来上がったメニューが「宝石のクリーニングサービス」です。
指輪が中心なのですが、2500円でクリーニングします。
靴回収で訪問した時に、指輪のクリーニングのオーダーも一緒にもらってきます。
それを宝石鑑定士のKさんのところでクリーニングしてもらいます。
普段、指輪を付けっぱなしなので、静電気を帯びてホコリが蓄積しています。
これをプロの手にかかると、新品同様に蘇るのです。
翌日、綺麗になった指輪をお持ちするととても感動されます。しかし、ここからが勝負です。
宝石鑑定士Kさんが、その指輪にピッタリのイヤリングかネックレスを選び、そのポラロイド写真を撮ります。
そして綺麗になった指輪をお届けした時に、
「うちはフジテレビの〇〇番組に出演している宝石鑑定士のKさんと契約していまして、そのKさんが選んだ、その指輪にぴったりのネックレスがこのポラロイドです…」とオススメするのです。
これで、だいたい20万円~30万円の価格帯です。
ほとんどが興味を持って実物を見たいと言われます。
これで、その後100万円くらいのお買い物につながるということでした。
以上の流れがKさんの考えた営業シナリオです。
宝石の魔力というのか、どんどんコレクター意欲を掻き立てられエスカレートして行くのだそうです。
靴の方がフェアリーテール。

 

 

 

 

 

 
宝石の方がフェアリージュエリー、という二本柱の構成に出来上がりました。
第一生命の営業部長からは、各支店の会議室を提供するので一緒に何かイベントができないだろうか?と提案を持ちかけられました。
それぞれの生保レディーが受け持っている契約者とそのお友達向けに、宝石鑑定士のKさんの講演をしてもらいたい。番組の裏話的な。
そして、持って来られた指輪をその場でクリーニングし、御社のスタイルの営業をしてもらって結構。第一生命は一緒に来られたお友達に向けて保険の有効性の講演をさせていただくという感じです…
マーケティングとは、
売り手が買い手にいがに近づくか…ということ。
一人の生保レディーの不便を解決し、さらにその先の楽しみを提供し夢を広げてゆくこと。
ということなのかもしれません。
ほんの小さな思いつきでしたが、そこを極めて行くと、気づかなかった大きなポテンシャルが潜んでいるということを発見したことが大きな収穫でした。
(本プロジェクトは、2014年4月30日をもって全て終了致しました。)