新・内海新聞101号

友翁伝

当社の創業時の大恩人、友近忠至氏の足跡を連載しております。友近氏はキティちゃんで有名なサンリオの創業メンバーのおひとりです。そして当社の元役員であり株主でもありました。友近氏の人生をなぞることでそのマーケティングの秘話をご紹介したいと思います。
以下、前回からの続きです。

 

「スモールドゥー」
内海ちゃん、ある企画を実行する時大切にせなあかんことがある。PDCAって聞いたことあるか?プラン ドゥ チェック アクション や。計画、行動、評価、改善やな。
これは、あかん。いつも計画ばっかりにエネルギーを使って、結果うまくいかんかったら、済んだことは仕方ないと、また次の計画をする。この繰り返しや。評価、改善を省略する。別にしなくても次の計画をすれば不問になる体質ができてしまう。日本人の悪い癖やな。本当にすべき事は、SD・C・P・BDの発想や。
スモールドゥー、チェック、プラン、ビッグドゥーなんやで。まず、小さくやってみる。たいそうなプランは不要。まず行動ありき。そして、検証と仮説や。ここが一番重要なんや。この仮説に基づいて計画や。そして、本格的な行動や。仮説のない行動は意味がない。これによって、思考と行動を高速化でき、高精度に持っていける。
この話は何十回と聞かされました。まさに、「した事だけがした事になる……」です。のちに知るのですが、これは、セブンイレブンの単品管理の考え方です。友近さんのDNAは、あちこちで生き続けています。

 

「ニューヨーク」
サンリオは、急成長を続けていました。ターンラウンドシステムも順調、倉庫も最新鋭でも問題が起こってきました。キャラクター毎のアイテムが爆発的に増えてきたのです。そのアイテム毎のパンチカードも膨大な数になっていき、これを店舗に送って戻してもらうターンラウンドシステムには限界がきていました。いままでの伝票方式に戻す訳にはいかない。どうすれば良いか考えるしかありません。各コンピューターメーカーを呼んで提案させました。しかし、いつの時代も同じで、コンピューターをもっと大型高速化すれば解決します…というものです。問題はコンピューターではなく、その手前の入力にあると友近さんは考えていました。日本中からアイデアや情報を集めました。しかし、決定打は見つかりませんでした。日本がダメなら海外があるさと、ヨーロッパに解決策を求めて長期出張に出かけました。ヨーロッパ中回りましたが、その答えは見つかりません。大西洋を超えてアメリカも調査をかけ、自らも乗り込みました。全米を回っても、いま抱える問題を解決する方法はありません。「だめか……」帰国する事にしました。帰りにニューヨークに立ち寄り松山中学の同級生でシティバンクに勤めている友人を訪問しました。本当に久しぶりの再会で、昔話に花が咲きました。ふと、向こうの席をみると女性スタッフが電話をかけています。ほう、プッシュホンかぁ。さすがアメリカは進んでるな…そう思いました。しかし、電話をかけているのに一言も喋らないのです。しかも、しばらく受話器を耳に当てていたかと思うと、すぐに電話を切ります。そして、また電話をかけています。これを何度も繰り返していました。あれは、一体なにしてるんでぃ?ああ、あれか。実験してるんよ。何の実験なんや?
コンピューターに電話をかけて預金残高を聞いてるんや。コンピューターが喋るんか?そうや。IBMとの共同研究なんや。どないして、電話がコンピューターにつながるんや。わしには、よう分からんけど、電話とコンピューターは、なんや親戚みたいなもんらしい。そやから電気的につながると聞いたで。電話がコンピューターの端末になるんやな!!
友近さんの頭の中に雷が落ちました。ちょっと電話貸してくれるか?米内山を呼んでくれ。おお、米内山か、遂に手がかり見つけたぞ。コンピューターと電話がつながるらしい。これが可能なら各店舗からプッシュホンでダイレクトに発注して貰える。完全無人化ができるはずや。アメリカではIBMが研究してるらしい。すぐに日本IBMの、長谷川に連絡して、わかる限りの情報を集めてくれるか?明後日に帰国するのでそれまでに資料を揃えて、直ぐに会議や。ええな!
すごい勢いです。いよいよ、世界初のテレフォンデータエントリーシステム TDEの開発が始まります。

 

「256」
友近さんの見たシステムは、まだアメリカでも試験中のシステムです。しかも、口座番号をプッシュして一方的に音声を聞くだけの仕掛けです。友近さんの目指すものは、発注システムです。膨大なデータベースと連動し、絶対に間違えない仕掛けを作らねばなりません。エンジニアの米内山さんはじめ、エンジニア達は、寝ずに頑張ったと言います。間違えない仕掛けは難しいのですが、間違えたら警報を鳴らす仕掛けはできそうです。チェックデジットという考え方を取り入れました。あり得ないプッシュをすると、ピッピッピッと警告音が鳴ります。今度は、電話と接続するコンピューターです。いまで言う、CTI Computer Telephony Integration コンピュータ・テレフォニ・インテグレーションという技術です。今でこそあたりまえですが当時としては超最先端です。大量の電話回線を接続できるコンピューターがありません。一件の発注に掛かる時間を計算し1日の発注量を予測し何回線の電話線が必要かを逆算しました。それに耐えられるコンピューターがありません。探し回った結果、ようやく見つけました。DECというメーカーが出しているミニコンです。デックのニゴロと言われる、一台に256回線を接続できて、同時に制御できるものです。このミニコンを、何台か連結し、24時間365日無人で受注できる体制が出来上がりました。お店からサンリオの受注センターに電話をし、コンピューターがでたら、顧客番号、商品番号、数量などをブッシュして入力します。もし、ブッシュを間違えると警告音が鳴ります。このブッシュも面倒だろうと、音響カプラーを用意し、電話を掛ける前に、予め注文の入力を済ませ、受話器を音響カプラーに乗せてスイッチを押すと、ピポパポピポパポとDTMF信号を流して発注が完了します。世界初の世界最先端のオーダーエントリーシステムの完成です。

 

「経営難」
テレフォンデータエントリーシステム TDEは、無事稼働始めました。長年、入力至上主義に悩み続けた友近さんは、遂にその完全自動化に成功したのです。合わせて、経理のシステム化も進み、日次決算を達成します。昨日の売上げから翌日の朝9時には集計が終了し、移動合計から一年間の推移まで計算され、毎朝9時に行われる幹部会議に間に合わせています。これは、驚異的です。NTTにとっても、重要な成功事例となり、電話から通信への先駆けとなりました。そして、サンリオは東京証券市場に株式上場を果たします。その後、システムの維持管理を富士通に委託し、ようやく友近さんは肩の荷がおりたのです。その頃、平凡社の下中社長から連絡がありました。友近さん。平凡社に戻って来てもらえんだろうか?平凡社は、かつての百科事典ブームも去り、経営難に陥っていました。友近さんは、私の意思で決めることはできない、辻社長が、平凡社に戻っても良いというのであれば考えますが、そうでなければ、自分にはどうすることもできません。そう下中社長に伝えました。
かつて、明屋書店を辞めて平凡社に移る時と同じです。主婦と生活社の常務から教えて頂いた、鉄と酸素の話のように、今の仕事を一所懸命頑張ることで、その先の道が広がってゆくという考え方を守っていました。辻社長と下中社長の会談が行われました。
そしてその結果、友近さんは古巣である平凡社の副社長としては戻ることが決まりました。