新・内海新聞 99号

友翁伝

当社の創業時の大恩人、友近忠至氏の足跡を連載しております。
友近氏はキティちゃんで有名なサンリオの創業メンバーのおひとりです。
そして当社の元役員であり株主でもありました。
友近氏の人生をなぞることでそのマーケティングの秘話をご紹介したいと思います。
以下、前回からの続きです。

 

「またしてもオーバーフロー」

スヌーピーは、相変わらずの人気キャラクターですが、そのロイヤルティの高さは問題でした。
スヌーピーを使い続ける限り永遠にその高いロイヤルティを払い続けることになります。
どうしても、サンリオ独自のオリジナルキャラクターが必要になってきました。
そしてビッグキャラクターが必要でした。どんなキャラクターが良いのかわからない中、
40歳以上の中年のおじさんたちが頭を捻りました。

サンリオには若い女性デザイナー達も沢山いて社内で育成していました。
彼女達のモチベーションを上げるために、功績のあった社員には、
長期の海外研修と称して海外旅行のご褒美が与えられました。
皆の意気も自然と高まります。

いくつかの新しいキャラクターのアイデアが集められました。
その中に、二頭身の口の無い白い猫がありました。
決まればレーティングを掛けるのですがこの段階ではまだ不明です。
役員の「白い犬でやってきたんだから、白い猫でもいけるんじゃない?」の意見で決まりました。
名前をキティとしました。

ハローキティ。このキャラクターは、やがて爆発的ヒットを記録。
モンスターキャラクターとなります。
その結果、倉庫は大変な状況となります。
キャラクターの付いたアイテムはどんどん増えて、受注から出荷が大混乱です。
営業は、百貨店や文具店を周り注文を聞いてきます。
その伝票がコンピューターセンターに回ってきて、それをキーパンチャーが、急いで入力。
その後、受注伝票が出力されます。
その量はどんどん増えて、入力マシンもキーパンチャーも絶対的に不足してきました。
なにやら、いつかきた道です。
しかも、人気商品はどこも注文してきますので、結果的に何度も同じ商品を入力することになります。
キャラクターの人気が上がれば、さらに注文は増えていきます。
平凡社の時の規模ではありません。どんどん経費が膨らむのは目に見えていました。
なんとかしなければ、パンクです。またしても友近さんは追い詰められました。

 

「入力が問題なんだ」

私が友近さんに教わったこと。それは、「入力至上主義」ということです。
コンピューターというのは、入力しなければなにもできないということです。
すべては、この入力から始まる。
そして、それは人の手作業で行われる。
いくらコンピューターの性能が上がっても、いくら処理スピードが速くなっても、
まずデータを入力しなければ何も始まらないのです。
人手に頼るから、入力ミスもある、時間もかかる、コストも増える。
友近さんは、これはおかしい…と考えました。
入力するにしても、ワンライティング(最初の一回だけの入力)ですべて完了するようにしなければならない…と。

できれば、入力するにしてもその作業を無くしてしまいたい、そう考えました。そして、その夢のような大実験が始まろうとしています。

 

「回転させろ」

「友近さん、このままでは入力が追いつきません。」
ハローキティはじめ、サンリオのキャラクターが世の中を席巻し始めました。
そのために、受注センターは大変です。
全国の営業マンが、百貨店、セレクトショップ、文具店から注文をもらってきます。

売れ行きの良いものは、さらに他のお店でも同じように注文をしてきます。
それらは、コンピューターに入力され、受注から出荷処理に回されます。
しかし、その入力作業がどんどん増えて、入力マシンも、入力オペレーターも絶対的に不足してきました。
入力至上主義を掲げる友近さんとしては、「こんなことがあってはいけない。」と悩み続けました。
きっと何か見落としている事があるはず。
現場を見て回り、考え、また現場を見て回る。そして、あるところに注目しました。
同じような伝票が何枚もあるのです。
それは、人気商品はどこも同じように注文してくるので、
結果的に同じ商品の入力が重なるのは当然です。
また、店舗毎の注文を見てみました。
やはり思った通り、その発注に
は癖がありました。
Tシャツなどの衣類に強いお店、文房具に強いお店などなど、
お店毎に客層に合わせて、売れ筋に特徴がありました。

ここに、なにかヒントがあるかもしれない。友近さんはある考えに基づいて、ある行動にでました。
まずすべての店舗の受注傾向を分析しました。
その傾向に基づいて、発注単位を決めたのです。
これまでのバラ売りは中止し、最低単位がパッケージ毎とか、1ダース毎とかに発注単位を決めました。
次に、その店舗の注文履歴から、一回の発注単位数を決め、その情報を予め打ち込んだパンチカードをつくりました。
そのパンチカードには、店舗コード、商品コード、発注単位毎の発注数など必要事項が既にパンチ入力されています。
これで準備は完了です。
各店舗への商品の出荷の時に、このカードが同梱されて送られます。
店舗が次にこの商品を発注する時は、このカードを営業マンに渡します。
本社に戻されたカードは、夜中に学生アルバイトがスリットにカードを通すだけで入力は完了します。
また、新規の商品も予めカードは作られていて、店舗から注文があると、商品と共にその新規のカードが同梱されて配送されます

あとは、この繰り返しです。パンチカードが店舗とサンリオの間を行ったり来たりする仕掛けです。
これによって、設備増強も大幅増員も必要なくなりました。友近さんは、この仕掛けに「ターンラウンドシステム」と名付けました。

 

「ウェイトレスの苦悩」

友近さんの実績は、業界を超えて広く知られるようになっていきました。
ある日、当時ファミリーレストランの先駆けとなったすかいらーく社長の茅野亮氏から電話がありました。
「折り入って、友近さんにご相談があります。つきましては、料亭でお待ちしております。」
友近さんが約束通り行ってみると誰もいない。
部屋に通されて暫く待っていると、突然前の襖がダンっと開いたのです。
そこには、茅野社長が土下座をして頭を下げています。
「どうしても友近さんにお願いしたいことがあります。どうか引き受けて頂きたい。」驚きました。
まあまあ、そんなところにいないで、こちらにいらして下さい。
お話を伺いましょう。
茅野さんの相談とはこんな話でした。

当時、ファミリーレストランは破竹の勢いで、製鉄産業を超えるとまで言われていました。
お店も多様化し、店舗数も全国に広がっていきました。
それに合わせて大問題が起こってきたのです。
社内で対策を検討させても、パッとしません。
ここは、サンリオの友近さんの天才的発想に頼るしかない、ということになりました。
忙し過ぎていくらアルバイトやパートをやとっても間に合いません。
これでは経費が増えて赤字になってしまう。
これを何とか解決して欲しいというものでした。
友近さんは面白いと思いました。
わかりました。週末にすかいらーくさんのお店を見学させて下さい。
友近さんは家の近くのすかいらーくに行き、店内全体が見える席に座り、
コーヒーを飲みながら丸一日観察しました。
「こりゃ、大変だ!」これが感想でした。

ウェイトレスの仕事を見ていると、
①お客様がいらっしゃると席に案内
②テーブルにお水とメニューを届ける
③別の客の注文メニューが出来上がったものを届ける。
④再びテーブルに行って注文を取る。
⑤注文伝票を厨房に届ける。
⑥帰られるお客様のお勘定のための伝票をレジに打ち込み、精算してお釣りを渡す。
⑦出来上がった料理をテーブルに届ける。
⑧食器を片付ける。
これだけのことを同時に進行するのです。
しかも、入口と出口が一緒で、帰る客と来た客でごった返し、大混乱。
食器を片付けることもできず、新しい客がそこには座ってしまうと、
食べ終わった客が新しい客かわかりません。

友近さんは気付きました。
そもそも、あそこでレジを打っていること自体が根本的原因。
あれをなくせば、この混雑は解消する。
入力至上主義です。入力することが間違いなのです。
入力するにしてもワンライティングで一回限りにしなくては…。
友近さんは紙にボールペンで流れをまとめました。
そして、その世界初のシステムは全国に普及していきます。
今では、全世界からそのシステムを見学にくるほどです。そのシステムとは……
ハンディターミナルです。

ウェイトレスがお客様の注文を取るとき、そのハンディターミナルに一度入力します。
それを店内数カ所にある端末に差し込むと、
その情報は、一つは厨房に飛んですぐさまプリントされます。
もう一方は、レジに飛んで計算が終了しています。
お客様がお勘定をするとき、伝票ごとに印刷されている伝票番号を入力すると、精算は終了です。

これによって一番時間のかかっていたレジ周りが数秒で完了し、ウェイトレスの業務量は激減したのです。
このハンディターミナルは、今は無線となりどんどん小型になり、ほとんどの飲食店で使われています。
「友近さん、なんで特許を取らなかったんですか?」
「内海ちゃん、そうやねん。全く頭になかったなぁ。」
二人で顔を見合わせて大笑いしたのでした。

そして、そのハンディターミナルは、サンリオの究極のシステム、テレフォンデータエントリー「TDE」の発想に繋がっていくのです。