新・内海新聞 98号

友翁伝

当社の創業時の大恩人、友近忠至氏の足跡を連載しております。
友近氏はキティちゃんで有名なサンリオの創業メンバーのおひとりです。
そして当社の元役員であり株主でもありました。
友近氏の人生をなぞることでそのマーケティングの秘話をご紹介したいと思います。
以下、前回からの続きです。

「カード会社」
平凡社の国民百科事典は、爆発的に売り上げを上げていきました。
百科事典の月賦販売をサポートする図書月販という会社が金融機関の出資で設立され、
友近さんは専務取締役に就任されます。
そして、当時としては珍しい、営業のプロたちを契約社員として雇う、
テンポラリーシステムを積極的に取り入れました。
売れた分のコミッションが支払われる方式です。
全国から営業の猛者が集まってきました。毎日毎日面接です。
友近さんは、家に帰れずホテルに泊まり込み、
ホテルの部屋で面接するという凄まじい採用活動です。
ミシンの営業マン、化粧品の営業マン、自動車の営業マン、
学習教材の営業マンなどなど、多士済々の人たちが集まりました。

その結果、平凡社の売り上げは当初の10倍まで膨れ上がりました。
世はまさに教育の時代。
一家に一セット、百科事典が応接間に置いてあるという社会現象になります。
更に百科事典だけでなく大型高額図書も月賦販売に乗せられ、
それを担当する割賦販売会社が作られ、それらを統括するための、
平凡社販売という会社が作られ、友近さんはその会社の常務取締役に就きます。
まさに、儲かり過ぎたのです。
その時、ある銀行からこんな話が持ちかけられます。
「アメリカの会社の日本法人で贈り物にするカードを販売している会社がある。
アメリカでは、カードを贈ることは一般的なのだが、日本ではまだ馴染まず、大赤字の会社だ。
これから日本もアメリカを追いかけることになるので、いずれこのカードを贈る習慣も浸透するかもしれない。
そこに出資してみませんか?」
そんな話でした。
平凡社の下中社長は、これは面白い!と、出資を決めます。
この経営難に陥っていた会社がやがて、数多くのキャラクターを生み出し、世界を席巻して行くことになります。

「オーバーフロー」
平凡社が出資した会社が後のサンリオとなりますが、
その頃はまだサンリオグリーティングという社名です。
平凡社を大株主としてグリーティングカードのサンリオグリーティングが再スタートします。
グリーティングカードとは、日本の年賀状や暑中見舞いのようなものですが、
特別なものではなく、誕生日や結婚式はじめ、日常生活の中での挨拶代わりとして、
普通に友人同士で交換される絵はがきです。
平凡社の出資によって、財務状況は改善し、当面の資金繰りも問題なくなりました。
会長は下中邦彦さんが、社長は辻信太郎さんが、専務取締役は荻須照之さんが、
そしてその後、常務取締役として友近忠至さんが就任しました。
当時は、キャラクターといえば、アメリカの人気漫画の白い犬のスヌーピーでした。
国内での販売代理店契約をしていました。
辻社長は、ソーシャルコミュニケーション産業という独自の考え方をお持ちでした。
自分の気持ちをモノに託して相手に贈り、贈られるという愛の交換という産業が必ず成立するという考え方です。
その後、辻社長の言った通りの時代が訪れることになります。
友近さんは、倉庫の在庫管理を担当することになります。
そして、着任早々事件が発生します。
注文の荷物がまだ客先に届かないと、営業担当が怒鳴り込んできたのです。
倉庫担当は、あるはずの荷物がなく、今製造に連絡して急いで作らせているという。
製造部に確認すると、倉庫の発注があてずっぽうで、ある商品は余り、ある商品は欠品という状況ということらしい。
辻社長は、倉庫に泥棒がいると大騒ぎです。
原因は、そもそも在庫管理が全くできていないことです。

さらに、よく売れる商品は営業担当がアルバイトに頼んで、棚から別のところに隠させて、
自分の受注が欠品にならないようにしていました。
それではいくら在庫管理しても同じことが続きます。
これも正確に在庫がわかり、欠品がないようにしてやれば、こんなことはなくなります。
そして、友近さんが、ある一手を打ちます。
全く設備投資もせず、今日来たアルバイトでも正確にできる仕掛けです。
在庫管理から販売分析、製造への発注処理まで同時に出来てしまいます。
この秘策が、サンリオの世界最先端と言われたコンピューターシステムの基礎となりました。
昭和45年、大阪万国博覧会が開催された頃です。さて、その秘策とは………。

「たなふだ」
友近さんが打った一手とは、「棚札(たなふだ)」です。
友近さんが命名しました。グリーティングカードは1箱500パッケージ入りです。
しかも、1パッケージ12枚ずつ入っています。
注文は1バッケージごとです。しかも、グリーティングカードは360種類もあります。
友近さんは、次のような方法をとりました。

一枚の紙に、上から降順に 500  499  498  497   496………10  9  8  7  6  5  4  3  2  1
と 100ずつ四行に分けて書きました。
この紙を360種類作り、ボードに挟み360種類の箱の棚の前に吊るしました。
そして、そこにボールペンを紐で吊るしました。
これで準備は完了です。
倉庫のアルバイトは、注文の品2パッケージを抜き取り配達用コンテナに詰めたとします。
その時棚札の数字を上から抜き取った分の2個をボーペンで消します。
500と499の2個に斜線が入ります。そうすると消されていない498が在庫数ということになります。
これの繰り返しです。次に、毎月ボールペンの色を変えました。
黒の翌月は赤、その翌月は青という具合です。
すると毎月の出荷の傾向が一目で分かります。
この月は出荷傾向がこうだから在庫数はいくらないといけないということがアルバイトでもわかります。
在庫数が100パッケージないといけないとすると100の手前に太い線が引かれます。
「ピッキングがこのラインを越えたら主任に発注の依頼をする事」とそこには書かれています。
これによって、適正な在庫で、欠品になる事もなく、投資もなく完成しました。
この考え方は、その後サンリオが最新鋭のシステムを構築する時の基本的な考え方になります。
そして、この棚札は、最新鋭のコンピューターシステムが導入されたあとも、
越中島の倉庫のグリーティングカードのコーナーには使われ続けました。

「平均値」
サンリオグリーティングのキャラクターアイテムはどんどん増えていきました。
キャラクターの売れ行きをどのように予測し生産計画を立てるのだろうか?
それは、謎でした。
友近さんは、いつでも誰でも同じようにできる仕掛けを作り上げなければならないと、いつも言われていました。
「自分の分身を作らなあかんのや。」
自分ひとりでやったら、なんでもできるし、要領ようできるで。
しかし、ひとりは所詮ひとりの力にすぎない。
このひとりの力を何十倍何百倍にするためには、人に協力してもらわなあかん。
だから、誰でも同じようにできるシステムが必要なんや。
そして、数字や。数字は最高のコミュ二ケーションツールなんや。
数字によって正確な判断ができるし、相手に正確に情報を伝えることができるからな。
…そう言われていました。

そして、その友近さんを驚かせたのが、ホールマーク社の平均販売指数方式というものでした。
そのノウハウとは?
グリーティングカードで、一個のイチゴと、二個のイチゴ、三個のイチゴのデザインのものがあるとします。
どれが一番売れるのだろうか?
これは、誰にもわかりません。
人の好みはバラバラですから。
これまでは人の勘に頼っていました。
しかし、ホールマークは知っていました。
平均販売指数方式という計算方式で決めて行くのでした。
それは、すべてのイチゴのグリーティングカードの平均販売枚数を計算するのです。
例えば、イチゴ1個のものが30枚売れました。
2個のものが50枚売れました。
3個のものが20枚売れました。
トータルの売れた枚数は、30+50+20=100枚です。
イチゴが1個から3個の3パターンあるので3で割りますと、1パターンの平均販売枚数が出ます。
100÷3=33.3枚です。これが平均販売数です。
この平均枚数の33.3を1.0とし、平均の2倍売れるもの は2.0、3倍売れるものは3.0。
半分しか売れないものは0.5とすべて2桁の指数にします。
この二桁の数字をレーティングと呼び、すべてのデザインを数値化します。
先ほどの例だと…
イチゴ1個は、30割る33.3でレートは 0.9
イチゴ2個は、50割る33.3でレートは 1.5
イチゴ3個は、20割る33.3でレートは 0.6です。
結果、イチゴ2個が売れ筋であり、イチゴ3個は人気がないことになります。
これまでは、担当者の勘に頼っていたものを、すべてデジタル化したのです。
サンリオは、これを積極的に取り入れました。
サンリオの製品についているタグを一度見てください。
長い数字が印刷されています。
これは先ほどのレートと、様々な情報が秘められています。
どの棚の、何段目のどこに陳列しなければならないといった細かい情報が書かれてあり、
すべてコンピューターではじき出された様々なレートを印刷しています。