新・内海新聞 97号

友翁伝

当社の創業時の大恩人、友近忠至氏の 足跡を連載しております。
友近氏はキティちゃんで有名なサンリオの創業メンバーのおひとりです。
そして当社の元役員であり株主でもありました。
友近氏の人生をなぞることでそのマーケティングの秘話をご紹介したいと思います。
以下、前回からの続きです。

 

「逆転の発想」
そして、国民百科事典の契約者は毎月どんどん増えていきました。
会社としては有難いことですが、その処理に追いつくためには、
大幅な設備投資と増員が要求されます。
このコンピュータというやつは仕事は早いのに、なんとも融通が利かない。
コンピュータを使ってなんとかならないのか・・・とIBMを呼ぶことにしました。
早速IBMの営業が数名でやってきました。
「当社では未入金者を探し出すのに大変苦労している。
ここをコンピュータでなんとか解決できないものかと、本日は来て頂きました。」

「現状はどのような処理を行われていますか?」

「まず、百科事典の月賦の申し込みをした方の個人情報をキーパンチャーが入力をします。
これが契約者データです。次に入金者データを入力します。
この契約者データから今月の入金者データを引き算します。
この答えが、今月の未入金者データということになります。」

「お伺いいしたところによると、何も間違っていませんが・・・。
問題はありません。一体どこが問題なんでしょうか?」

「いやいや、大問題ですよ。
毎月の未入金者は約2%なので、毎月全契約者の98%を入力していることになります。
更に、契約者も新規が増え、毎月どんどん増えているのです。
結果、毎月の入金者データも増え、パンチマシンもオペレーターもまったく足りない状況なのです。」

「友近さん、それは当然のことです。どこもそうですよ。
それは御社にとっては有難いことじゃないですか。」

「あんた、何を考えているんだ!これじゃ、経費がどんどん増えてしまう。」

「方法があるとすれば、もっと高速のコンピュータを導入されることをお勧めします。」

「そんなことが許されるはずがない。
受注すればする程経費が増大して赤字になってしまう・・・。
ところで、IBMさん、良いアイデアがあるのですが・・・」
友近さんはニヤリと笑いました。

「契約者データ、これを(A)とします。
次に、毎月の締め日の、銀行から連絡のあった入金者データ。
これを(B)とします。
そして契約者データから入金者データを引き算すると、これが未入金者データ(C)ということになります。
つまり、(A)マイナス(B)=(C)という計算式です。
よく考えると(A)マイナス(C)=(B)でもある訳ですな。
(C)の未入金者データは全体の2%しかないのですから、
最初からこの(C)の2%だけを入力すれば良いとは思いませんか?」

IBMの営業は目を丸くして「はぁ?!」と答えるのが精いっぱいでした。
「いや、その(C)が判らないから(A)から(B)を引き算しているのですよ。
これだから素人の方は困るんですよ。」
そう言って、IBMは帰って行きました。

しかし、友近さんは諦めません。
(A)マイナス(C)=(B)この計算式を何日も何日も考えています。
そして、遂に思いつくのです。

まず、顧客の入金管理を本店から各支店に移しました。
銀行からの入金連絡は、それぞれの管轄の支店に連絡する様にお願いしました。
それから、各支店にカステラの箱を二個ずつ配りました。

支店は、この箱に入る大きさのカードをつくり、契約者の情報を書き込みました。
二個の箱は縦に二つ並べました。そして左側の箱に「契約者」と書きました。
そこに、先程つくった契約者カードを「あいうえお順」に並べました。
右の箱には「入金者」と同じように書きました。こちらは空っぽです。
これで準備は完了です。

さて、これでどうなったでしょうか?
銀行から支店に入金者の情報が伝えられます。
支店の事務員さんは、左の箱から連絡のあった人のカードを抜き取ります。
そして、右の入金者の箱に移動させます。この繰り返しです。

その結果、最後に左の箱に残った数枚のカードが未入金者ということになります。
この数枚のカードを入力するだけです。これで、あの悩ましい問題は解決したのです。
(A)マイナス(C)=(B)の計算式を見事に達成しました。
しかも、人員も装置も今までの半分以下で賄えるようになりました。
これ以後、IBMはこの友近忠至という人物に注目し始めたのです。

 

「資金ショート」
友近さんによる革命的コンピュータ処理を行った平凡社は、順調に受注を伸ばしていきます。

「コンピュータという機械は、恐ろしく消化の早い機械や。
大量の情報を猛烈なスピードで消化してしまう。そして、偏食が激しい。
コンピュータが消化しやすいように調理してやらないと一切受け付けない。
この調理の仕方がミソなんやで。」
これは、いつもの友近さんの口癖です。

平凡社の契約が伸びる事により新たな問題が発生したのです。
国民百科事典を月賦で販売すると、商品は先に渡します。
そして代金は1年かけて回収です。
つまり、資金繰りが悪化してきたのです。
契約数が伸びれば伸びるほど、資金が足りなくなってきました。
資金をどこからか調達しなくては、資金ショートで倒産です。
友近さんは銀行回りを始めます。
しかし、どこの銀行も話を聞いてくれません。
当時、出版業界は水商売と同じで、本は出版しても売れるかどうかは確証がなく、水ものだったからです。
友近さんは途方にくれました。
ある日、旧制松山中学の同窓会が新宿であり、友近さんは参加する事にしました。
懐かしい顔ぶれに大いに盛り上がりました。
同窓会も楽しく終了し、何人かで新宿駅までブラブラ歩いて帰りました。
たまたま一緒にいたのが、同級生のA君でした。

「あんた確か、三井生命やったな。いつも不思議に思うんやけど、
生命保険というのは毎月掛け金を集めてるけど、その金はどうするんや?」

「そうやなあ、万が一の時の支払いに使われるけど、それ以外は、資金運用してる。」

「資金運用?」

「ああ、いろんな会社に貸し付けて運用して、利息を稼ぐんや。」

「生命保険会社が銀行みたいなことするんか?!」

「でも、ほとんどが三井グループの中での運用やけどな。」

「そ、その話をもっと詳しく聞かせてくれ!!」
そのあと、友近さんは、平凡社の現状、月賦販売は確実に資金回収できること、
またその資金が必要なことを話しました。

A君は、一度社内で検討する事を約束してくれました。
それから一週間程してA君から電話がありました。
「友近君、うちの専務が話を聞いてもええと言うてる。一度、こっちに来てくれるか?」
何か大きな歯車がガチャンと一つ動いたような気がしました。

友近さんは、三井生命の専務に、明屋書店のこと、平凡社のこと、国民百科事典のこと、
日本初の月賦販売のことなどを熱く語りました。

「友近さん、わかりました。平凡社に10億円、資金をお出ししましょう。
その代わり条件があります。
毎月一回、ウチの課長達に友近さんのご経験談をご講義いただきたい。」
この専務は後に三井生命の社長になられます。

かくして、三井生命から平凡社に10億円が、振り込まれます。
友近さんは、そこから1億円ずつ、今まで融資をお願いするために訪問していた銀行に預金していったのです。

驚いたのは銀行です。先日までお金を貸してくれと言っていた平凡社が今度は1億円も預金!
支店長がどういうことか聞かせて欲しいと挨拶にこられました。

「三井生命さんが10億円も!」
「では、当行も1億円の預金を担保に3億円までの融資枠を付けさせて頂きます。」

同様に他の銀行も融資枠が付き、合計35億円の融資枠になりました。