新・内海新聞 91号

我が師匠「友近忠至」

昭和二年生まれ。愛媛県松山市出身。
キティちゃんのキャラクタ―で有名なサンリオの創業メンバー。元常務取締役。

私はこの人に出会ったことで多くの事を学びました。
銀行員だった友近さんに命じられたミッションは、松山市の商店街にある明屋書店の口座を獲得すること。
今まで幾人もの行員がチャレンジしたけれど、新規開設はならず、みな追い返される結果となっていました。
本好きの友近さんであればできるかもしれないと、支店長じきじきに命ぜられた仕事でした。
その明屋書店に友近さんはやってきました。
番台にいる店主の安藤明さんの所に行き、名刺を差し出し、
「愛媛相互銀行の友近と申します。本日は新任のご挨拶に伺いました。」

安藤さんは、名刺をチラリと見ただけで、また台帳を捲っています。
友近さんの顔も見ません。何も言いません。
友近さんは「できれば、わずかで良いのですが当行に口座の開設をお願いできればと思いまして・・・
「いらんいらん、うちは昔からずっと協和さんにお願いしてるんや。
ほら、みてみぃ。店の前に支店が合って、なんかあったらすぐに行員が駆けつけてくれる。
あんたとこは駅前やろぅ。遠い。帰り!」

顔も見ずに、一方的にしゃべると店の奥に入ってしまいました。
友近さんは、帰るしかありませんでした。
もう少し簡単に営業できると思っていた自分が甘かったと反省しました。
せっかく本屋に来たのだから何か一冊買って帰ろうと店内を見て回りました。
その時、目の中に飛び込んできたのが、ダイヤモンド社から出ていた「セールスは断られた時から始まる」というタイトルでした。
「そうや、セールスなんて断られて当たり前。今からや!」

その本を購入し、気持ちを入れ変えるのでした。
銀行内に作った読書俱楽部は会員も増え、一番大きなサークルになっていました。
毎月の本の仕入れは友近さんに任されていました。
その本の購入をまとめて買うのではなく、毎日、明屋書店で一冊づつ買うことにし、書店通いが始まりました。
夕方になると毎日やってきて、本を買っていく友近さんは嫌でも目立ちます。
番台に店主の安藤さんがいるときを狙って買うようにしました。

安藤さんは、毎日やってくるお得意さんが気になり始めました。
そして、しばらくして向こうから声を掛けてくるようになったのです。
「お客さん、毎日毎日ご購入頂き、毎度有難うございます。相当、本がお好きなんですね。」
「いえ、まぁ」
「お客様、ひとつお勧めしたいものがあるのですが。」そう言って、パンフレットを手渡した。
「今度、三省堂書店から世界文学全集といういろいろな世界の物語を収めた全集が出版されるんです。
毎月1冊づつ発行され全12巻です。今、その予約受付中ですので、1セットいかがですか?」
パンフレットを見ていて、あることを思いつきました。
「店主、このパンフレットを何枚か頂けませんか。社内でも希望者がいるか聞いてみます。」
そういうことならと、何十枚も貰って帰ってきます。
そして、銀行の読書俱楽部のメンバーの机の上に置いて行きました。
一週間ほど経ったころ、申込者の数は40件近くになっていました。
時代は昭和30年台。景気も上がり始め、池田首相の所得倍増計画が進められる世の中で、民衆の心も教養に飢え始めていた時代です。
翌日、一計を案じた友近さんは申込書の束を持って明屋書店に向かいました。安藤さんは目を丸くして驚きました。
「うちの店でもまだ数セットしか売れてないのに、40セットも!有難うございます!」
そして、友近さんは続けます。
「安藤さん、実は私はこういう者です。」そういって友近さんは名刺を差し出しました。
愛媛相互銀行本店 友近忠至
「あっ!」
安藤さんは驚きました。
「以前、こちらに新任のご挨拶をしに来たものです。覚えておられませんか?」
その時は、友近さんの顔も見ずに追い返しているので、この世界文学全集のお客様とは夢にも思いません。
友近さんは続けます。
「今回、世界文学全集を申し込まさせていただく際に、ひとつお願いがございます。
毎月一冊づつ発行され、その代金を毎月支払うとなっています。
そしてその発行日が毎月20日。20日と言うと皆給料日まえで、なかなか厳しい。
そこで、毎月の支払いを給料日の25日まで待って頂きたいのです。
もちろん、本の引き渡しは支払いが終わった後でも結構です。
そして、40人もの請求を毎月行い、回収に行くのは大変なことです。
そこで、毎月の本台の回収は、私の方で行います。
明屋書店様には、当行の普通預金口座を作って頂き、
そこに回収した本の代金を振り込ませていただく、と言うことではいかがでしょうか?」
ここまでしてもらえば安藤さんも断る理由が見当たりません。
結局、明屋書店の新規口座の獲得に成功し、銀行にとって優良顧客となっていきました。

友近さんは言います。「判るやろ。セールスは断られた時から始まるやで。」
その後、明屋書店との取引も大きくなっていきます。
そして、安藤さんの強い説得により、友近さんは、この明屋書店に転職することになるのですが、これはまた次の機会に。

友近さんは、またこんなことも言われました。
世界は50年周期で回っていると言われる。
そして、そのスタートは憲法発布の年なのだよ。だからその国ごとにスタート時期は違う。
そしてこれは全世界共通。
私が当時、明屋書店に通っていたころは丁度昭和32年から始まる「教育の時代」やった。
衣食住が足りて、教育や教養に目が向く「教育の時代」
そやから、世界文学全集のような高い本でも皆がこぞって買うたのかもしれん。
そして、その50年周期の二週目の教育の時代が2007年から始まる。
次の教育の時代は何がやってくるんやろうか。
楽しみにしてるんや。(以下続く)