新・内海新聞 84号

ある気づき

以前、ジンテックのある半蔵門に三城(さんじろ)
という高級なお蕎麦屋さんがありました。
営業は11時~15時まで。
平日だけのランチだけの営業でした。
メニューもなく、一種類のコースしかありません。
座ると日本酒が一合出てきます。
それに合わせて辛み大根のおろしときのこの和え物、そしてわさび漬が出てきます。
それが済んだ頃に、ざる蕎麦が出てきます。
大きな土瓶に蕎麦湯が出てきて、大皿に山盛りの野沢菜。
最後に親指大の花豆を甘く煮込んだデザートというコースで2000円です。

半蔵門で20年営業した後、生まれ故郷の長野県松本市に移転してしまいました。
松本市内で今も当時と同じスタイルで営業されています。
そんなお店を切り盛りされているのが、柳沢依美さんという女将です。

通っているうちに、この女将と大変仲良くなりました。
このお店の顧客は、政財界の重鎮ばかりで、
さまざまな分野のトップの方を見てこられたので、人を見る目が高く、
結構厳しい意見も言ってくれる、私にとっては大切なご意見番でもあります。
お店に行くたびに、お互いいろいろなことを話し合います。
先日、そんな松本にある三城に行った時、
柳沢依美さんが、興味深い話をしてくれました。

依美さんのお母様は、105歳まで長生きされたのですが、
後半は痴呆が出て大変だった様です。
その時、トイレだけは絶対に自分の力で行くこと、というルールを作って、
徹底して守らせたそうです。
何も用事がなくても、トイレの前を通った時は
必ず、立ち寄ることとキツく言ったそうです。
その結果、痴呆もそんなに酷くならなかったそうです。

そんな依美ちゃんが、「先日、アタシ、大発見したの!」と、
興奮気味に言い出しました。

その頃、お蕎麦屋さんをしながらお母さんの面倒を看るのは大変で、
友人達が気の毒がって、ご飯のおかずや様々な生活用品を送ってくれたそうです。

それから10年以上経って、今度はその彼女達の母親が痴呆になってしまったのです。

依美ちゃんは、あの頃の恩返しにと、
松本の地元の野菜や三城のお酒や蕎麦や蕎麦つゆを、
彼女達宛に宅急便で送ることにしたのです。それも毎週金曜日に!

毎週届く依美ちゃんからの荷物に、痴呆の母親は、
「いいわねぇ・・・いいわねぇ・・・」
と、羨ましそうに覗き込むのだそうです。

そうだ、そんなに楽しみにしているのなら、
そのお母様の名前で送ってあげよう、と思いつきました。

毎週届く自分宛の荷物。

お母様達は毎週楽しみに待つ様になりました。

そうしたら、どうしたことでしょう!
痴呆が治まり始めたのです。

今ではしっかりと普通の会話ができ、デイサービスも再び行ける様になったのです。
それも荷物を送っている全員が同様に改善したのです。

アタシ、大発見したのよ!

「痴呆症には、決まった日にその人の名で郵便や手紙を送り続けること。」

つまり、誰かに愛されていると本人達が自覚することが、
痴呆の症状が改善する・・・ということ。
それはハガキでもいいの、電話でもいいの。
何処かのお土産でもいいの。

大切なことは、本人名で送ること。
そして、毎週決まった曜日にきっちり届けること。

実は、とっても簡単なことだったのよ!

なるほど・・・今回も依美ちゃんに教わりました。

先月、亡くなった私の恩師サンリオの創業メンバーの友近忠至さんも
87歳で多磨に一人暮らしでした。
奥様も先に旅立たれ、お子様たちが細々とお世話されていますが、
日常の生活は自分でこなしておられました。

そんな友近さんのお宅をお邪魔した時、一人のご婦人が来られて、
郵便物を開封し、用事はカレンダーに書き込み、
その日のおかずを持ってきて冷蔵庫に入れ、溜まった食器を洗う・・・

たったこれだけのことで30分くらいの仕事量です。
毎週2、3回だけ決まった曜日に決まった時間に訪問し、お声がけをして帰られます。
毎週、習慣化していくリズムが規則正しい生活を意識します。
この訪問は、生前の奥様が、自分にもしものことがあったら、
このように毎週訪問してほしいと頼まれたそうです。
毎週来るのは他人ではありますが、
今でも奥様に愛されていると自覚できる瞬間でもあります。

人に愛されているということ、
これは人の精神衛生上とても大切なことなのかも知れません。