新・内海新聞 81号

TACS誕生秘話(2)

通信販売業界や携帯電話業界にTACSの需要が広がり始めました。
その年の秋に、アメリカのサンフランシスコでCTIフェアが開催され、私も見学に参加しました。
CTIというのはコンピューターと電話回線を接続する技術です。
今では当たり前の技術ですが、当時としては画期的なものでした。
全米から数多くの企業が参加していました。
いろいろ見て回ると、コールセンターのシステムがほとんどでした。
特にドミノピザのように電話でオーダーが入ると、その電話番号をキーに、相手の住所やこれまでの購買履歴が画面に映し出されるというものでした。

当時は「Caller ID」と呼ばれる技術でした。
当然日本にはまだそんな技術はありません。
同じようなシステムの展示をしている会社が数多くありました。
私は数社のブースを見て歩いて、不思議に思うことがありました。

仕掛けを簡単に言うと、今までドミノピザで購入をしたお客様の顧客データベースがコンピューターの中に蓄積されます。
お客様から注文の電話がかかってくると、その電話番号を読み取ります。
その読みとられた電話番号から、同じ電話番号のお客様を顧客データベースから選び出し、コンピューターの画面に映し出される仕掛けです。
これなら、注文した方も何度も住所を告げる必要もないし、お店側も聞き間違いもなくなり、スピーディーに処理ができます。

しかし、もしもこの顧客データベースの電話番号が間違っていたり、変更になっていたら、正しく画面に顧客の情報が表示されないのではないか?
そう思い、ブースで説明している担当者に質問しました。
そうしたら、彼らの答えは驚くべきものでした。

「まったく問題はない。当社のシステムはいつも正しく正確に稼働している。
顧客データの精度は、あなた方の問題であって、我々には関係がない。」

今、我々が日本で行おうとしている事業は、世界最先端ではないのか?そう思った瞬間でした。
このCTI技術の中に我々のTACS技術を組み込めば、いつも顧客データベースの精度を維持し、いつも正確に画面に顧客情報を表示する事が出来るはず。
我々の市場は日本よりもアメリカにあるのかも知れない、そう感じました。

そういうことがきっかけで、頻繁にアメリカに行くことになりました。
さまざまな場所で説明会をしているうちに、一人のアメリカ人に出会います。
ノースキャロライナに本社のある大手銀行のバイスプレジデントのA氏です。
彼は、一番後ろの席に座り、我々の話しを黙って聞いていました。
講演が終わると次々と質問をしてきました。

そして、彼はこう言いました。
「我々の銀行は全国にATMを設置して、クレジットカードでお金を貸し付ける業務を行っている。
ネイションズバンクという。
しかし、アメリカの経済も不況になり、自己破産をする人が急増していて、そのようなリスクの高い人を、あらかじめ与信して行きたいと考える。
君のシステムはそれに使えるかもしれない。」
そういうことを言いました。

日本では携帯電話の契約時の与信システムとして利用されている事を伝えると大変驚いていました。
「全国のATMでクレジットカードを使うと、そのカード保有者の銀行に登録された電話番号をTACSが瞬時に調査し、
もしもその電話番号が不通になっていれば、ATMの画面に警告のメッセージが表示される仕掛けはできないだろうか?
それをチェックするたびに1セント課金する・・・というアイデアはどうだろうか?」
これをきっかけに、サンフランシスコとノースキャロライナに営業拠点と開発拠点を作り、アメリカでの活動がスタートします。
A氏はアメリカの銀行を退職し、当社にアメリカ担当として入社してきました。

しかし、このアメリカ版TACSの開発は苦労の連続でした。
アメリカには電話会社が1000社以上あり、それぞれが違うシステムで動いていて、それに合わせたプログラムを作るのが大変です。
当時は、雨が降ると電話が混線する、あるいは不通になる・・・なんて普通です。
それを電話会社に苦情を言うと
「当社は問題ない。他社が悪い。」
と責任を他に押しつけます。
自力で解決する以外ありませんでした。

この経験はその後、大変大きなノウハウとなっていきました。
結局、コストが合わないということで、アメリカでの事業化はペンディングとなってしまいました。

このノウハウは、アメリカではなく日本で開花する事になります。
リアルタイムに電話の開通状況をチェックするシステムは新たな与信システムとして製品化されました。
それは金融機関で採用されることになります。
銀行のATMを利用するとき、キャッシュカードを挿入します。
その時、本店に登録されている、その顧客の登録された電話番号を自動的にチェックをかけます。
この時に、もしもその顧客の電話番号が不通になっていたり、移転になっていれば、別のプログラムが動き、ATMの液晶画面にメッセージが表示されます。

「ご住所等の変更はございませんか?
もしも変更されている場合、窓口で手続きをお願いします。
放置されると審査の時に影響する場合がございます。」
それを見た顧客はその場で住所変更をしてくれます。
まさに複雑なシステムを使わずに自動化できた事例です。

このことにより、TACSは与信方法としても機能が注目され始めます。
与信といっても、それほど厳格なものではありません。

いうなれば「簡易与信」といわれるものです。
言いかえれば電車の踏切の警報のようなものです。
踏切を渡ろうとするときに、危険が近づいていれば警報が鳴ります。
その時に立ち止まって、左右の確認をする。
そのような場合の警報と考えればよいと思います。
厳重に調査してみれば、問題がなかったという場合もあるでしょうし、このTACSという警報が鳴らなければ、新たな与信は省略し、時間と費用の削減になります。

この考え方は現在さまざまな業界で採用され、24時間365日、全国で稼働しています。
(続く)