新・内海新聞 80号

TACS誕生秘話

株式会社ジンテックの主力商品である「TACS(タックス)」のルーツをお話したいと思います。
平成4年ある事件が勃発します。
当時の仕事はコールセンターでした。
しかもアウトバウンドという発信専門のコールセンターです。
就職シーズンに、大学生に採用企業の会社説明会やセミナーのご案内をし、出欠確認をしてゆくコールセンターでした。

そのスキームは以下の通りです。
企業の人事部に、大学、学部と選んでいただき、その指定学部の学生リストを出力します。
次にその学生宅に向けて企業のダイレクトメールを送付します。
そのダイレクトメールが自宅に届いた頃を見計らって、電話をかけていき、セミナーの参加の呼びかけを行ってゆくのです。
事件というのは、この仕掛けの根底を揺るがすものでした。
最初にダイレクトメールを郵送するのですが、これが相手先不明で大量に人事部に返送されてしまったのです。
部屋いっぱいになるくらいの量の返戻郵便を見た人事部はカンカンです。
当時はバブルで人材不足の時代。
各企業は注目を集めるために企業紹介のビデオテープを作ったり、分厚い会社パンフレットを作ったりして、それを郵送するものですから返戻になった郵便の量もすさまじく、会議室が床から天井まで一杯になるほどでした。
こんな精度の悪いリストを使っているようでは電話なんかも通じまい、と契約がキャンセルになっていったのです。
この年は、たまたま仕入れた大学生名簿の質が悪く、こういう事態になったのですが、なんとか名簿の精度を上げないと、本業であるコールセンターが立ち行かなくなる。
大変な危機感でした。
しかし、その方法がありません。
購入した名簿会社に苦情を出しても、何もしてはくれません。
自分たちで防衛手段を考えなければなりません

これら大学生の名簿を使う前に、社内で電話をかけて本人確認をしてから使うのはどうだろうか?
コールセンターのアルバイトの女性たちに頼んで、事前に対象リストに対して電話をかけてもらいました。
しかし、それは莫大なコストがかかりました。
12万件の対象ですので、これで数千万円かかる計算になります。
行き詰まりました。

このとき、ふと気付きました。
「着信するから電話代がかかるのだ。着信する前に切断すればよい。」
電話をかけて呼び鈴が鳴っている間に切断すれば、電話代金はかからないはず。
そして、電話が鳴るというのは、その電話番号が正常で住所も正常。
電話のベルが鳴らないで欠番の音声メッセージ等が聞こえた場合は、既に電話は使われていないので引っ越してしまった可能性が高い。
こんな仮説を立てて、数百件電話をかけてテストしてみました。
そして電話が繋がらないリストに対して、その住所に郵便を送ってみました。
理屈が正しければ、これらの郵便は相手先不明で戻ってくるはずです。
その結果は予想通りのものでした。
送付した郵便のほとんどが相手先不明で戻ってきたのです。

「これでいける!」
当時の主力製品だったコールセンター事業のクレーム対策として、このアイデアは誕生したのです。
しかし、人力で電話をかけて、呼び鈴を聞いてすぐに切るという作業は、結構ストレスも多く、はたして人間のする仕事か?
という疑問が起こり、なんとかこれを全自動化できないものかとTACSの開発に取り組みました。
といっても私一人の開発部隊でしたが・・・。

まず、考え方をまとめてNECの知り合いの部長に相談してみました。
「こんなものを作りたいのですが、協力できますか?」
相手に電話をかけて、その呼び鈴が聞こえたら直ちに切断し有効のファイルに、電話の録音メッセージが聞こえれば欠番のファイルに振り分ける、しかも相手側の電話の呼び鈴は鳴らさない、というものです。
NECの答えは「現在の技術では不可能」というものでした。
人間ができるものを機械ができないはずはない、と別ルートを探し始めました。

ちょうど2年前にコールセンターの効率化のために、NTTのエンジニアたちと、ある電話コンピューターを作った経験がありました。
それは、学生は不在が多く、留守番電話も携帯電話も無い時代ですので、電話をかけてみなければ留守かどうかが判らない。
3件に2件は留守宅で、10回電話の呼び鈴を鳴らしてみて留守かどうかわかるという現状でした。
10回呼び鈴を鳴らすというのは、一回が3秒なので30秒も時間を無駄にすることになります。
また3人の内2人は、ただ呼び鈴を聞いているだけで仕事はしていない事になります。
そこで、パソコンに学生名簿を蓄積したサーバーを接続し、電話回線を3本接続しました。
このセットを10台並列につなぎました。
学生名簿から3名の学生の電話番号を抽出し、3名同時に電話をかけます。
このうち、2件は呼び続けています。
残りの1件は確率上、相手が電話に出てくれます。
着信するとその学生の詳細な情報が画面に映し出される仕掛けです。
呼び続けている2件のうち、10回のうち9回目で相手が電話に出た場合、ダブってしまいます。
そういう場合はとなりの空いているパソコンに転送されて、その情報が画面に映し出される仕掛けです。
このように、絶えずパソコンの画面には、着信した学生の情報が次々と映し出される仕掛けでした。

このシステムを開発したNTTのエンジニアに、相談してみました。
「できると思いますよ!」
頼もしい返事でした。
彼らは、既にNTTの社員ではなく、退職し自分たちで開発会社を設立していました。
ですので、NTTに気兼ねなく、開発に取り組むことができたのです。
開発終盤になって、試作品ができたので見に来てほしいと連絡がありました。
行ってみると、一台のパソコンが組み立てられていました。
「では今からテスト稼働してみます。」
スイッチと同時に架電を始めました。
あっという間に100件程度は終了しました。
その結果は67%は判定できたのですが、残りはタイムオーバーで判定不明でした。
「これが限界ですね。」
これでは使い物にならない。

数パーセントの郵便の不着を見つけるシステムなのに30%以上も判定不明では意味がありません。
そもそも30%の判定不明とは一体何なのか?
調べていくと、「話し中」でした。
話し中の音は「プープープー」という1秒置きに800ヘルツの音が連続するものでした。
話し中という事は電話しているということなので、そこに在住ということは間違いない。
だから話し中は「有効」に入れてほしいとお願いし、再度テストしたところ、95%まで判定という高精度まで上げられました。
これならいける!

こうしてTACSの第一号機が完成します。
社内のコールセンターの精度向上のために自社開発した装置ですが、あまりにもお金をかけすぎて経営が大変になってきました。
このTACSを他社に販売して利益を稼がねばなりません。

早速、今回の開発のきっかけとなった、学生名簿会社に行って、その会社の名簿のメンテナンスの受託の仕事を受注しました。
その後、あちこちの名簿会社やコールセンターへ営業に行き、名簿のメンテナンスの受注を重ねていきました。
そんなある日、平成6年頃だったと思いますが、ある通信販売の会社から問い合わせが入りました。
京都にある大手の総合通販の会社です。

「実は、今度郵政省が郵便代金の大幅値上げを計画している。
この値上げでカタログを郵送する総合通販は全社赤字に転落してしまう。
どうしてもカタログは送らなければならないが、できれば相手先不明で届かないと判っているものは最初から送りたくないのだ。
その仕分けが御社ならできると聞いた。」
そんな内容でした。
「できますよ。ただし全件に電話番号が無ければできません。それは大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
そんなことで、はじめて通信販売の業界にニーズがあることが判りました。
この会社からは最終的に受注はいただけませんでしたが、通信販売業界への営業を開始しました。

浜松の中堅会社、大阪の大手通販会社、高松の大手通販会社、東京の大手テレビショッピング会社などなど、立て続けに受注となりました。
なんとか、これでジンテックは息を吹き返しました。
この時のTACSのテーマは「郵便不着防止の経費削減」です。
経費削減であれば、一円単位でその費用対効果を証明できるので、大変営業しやすかったのです。
クライアントは、名簿会社、コールセンター、通信販売会社の3つでした。
そのころ、電話の呼び鈴の周波数を確認するというアナログ方式から、デジタル信号で瞬時に仕分ける次期方式に切り替えが完了し、処理能力も10倍に大幅拡大しました。

そんな時、ある一本の電話が入ります。
日本IBMからでした。
「現在ある企画を進めていて、その中の一部方式に御社のTACSの採用が決定した。来週、大阪に打ち合わせに来てほしい。」
という電話でした。
IBMなんて営業もしたことがないし、どうなっているのだろう。
大阪のその会社は携帯電話会社でした。
30名以上のエンジニアが集まった会議でした。
この携帯電話会社は後発会社で、電話機本体は格安で、通話料で回収するビジネスモデルを進めていました。
電話機、一台ゼロ円、というものです。
爆発的に拡散するのですが、不正利用であったり、使うだけ使って川に捨ててしまうとかいう事件が多発していました。
そこで、携帯電話申し込み時の審査をもう少し強化したい。
しかし、時間もお金もかけたくないということで、電話番号の有効無効のチェックができる当社のTACSに白羽の矢が立ったという訳です。
全国の代理店から申し込みのFAXが届きます。
このとき、自宅や勤務先の電話番号を記入します。
これをFAXで読み取り、TACSでリアルタイムにチェックします。
この段階で電話番号が欠番というのはあり得ないので、もしも欠番信号がでたら、代理店に差し戻し、新たな身分証明を提出してもらうというチェック機能です。
これによって、迅速で簡便、さらに格安の与信システムが完成しました。

このように、テーマが、「与信確認」という新たな分野に利用拡大となりました。
(続く)