新・内海新聞 76号

フラスコ産業

以前に「フラスコ産業を探せ」という内容を書きましたが、先日これに関しての話題が上がったので、再度投稿します。

まず、フラスコ産業を探せ・・・とはどういうことなのでしょうか?

最初に言い出したのは戦闘機「隼」を開発した糸川英夫博士だといわれています。
フラスコというのは化学の実験で使用するガラス製の容器です。
このフラスコが学校や研究室では使われるものですが、そんなに大きな需要はありません。
今年のヒット商品の横綱にフラスコが選ばれるようなこともありません。
いったい誰がつくっているのでしょうか。
それは、ちゃんとフラスコを製造しているガラス容器の会社があるのです。
フラスコの業界は、そんなに数も出ないし、つかう数量も高が知れています。
でも、学校や研究所などでは必需品なのです。小さな市場ですので、競合の新規参入もほとんどありません。
しっかりと安定した需要があり、必需品。
またこんな小さな業界に何十社も競争相手はいません。せいぜい数社。
マーケットとしては狭小ですが、しっかりとした需要にたった小さな独占企業です。
ビジネスで独占は大きな安定要素です。
このように、小さくてもしっかりした需要をとらえて独占することで安定が得られるということの例えです。

実は、顧問先のある会社で営業会議が行われました。
その企業は大変業績も良く、成長しています。
その分野の市場は既に70%程度他社の商品も含めて普及してしまっていて、残りの領域が30%弱しかありません。
これでは、これまでのような毎年10%の成長という訳にはいきません。
会議の中で、自社ビジネスの将来性が不透明ということになりました。
残された道は、海外進出か新規事業で新たなマーケットをつくっていくしかないという意見が出ました。
しかし、私はその話を聞いていて「フラスコ産業を探せ」を思い出しました。
それほどまでに普及しているということは、しっかりとしたニーズがあり、それに応えている証拠です。
しかも、成熟した市場なので新たな競合も参入しにくい。
これは裏を返せば立派な安定市場です。
市場は今後大きな成長は無いかも知れないけれど、需要は有り続ける。
しっかりとした技術を持ち続けていれば、その企業はきっと存在し続けると思います。
市場規模を拡大してゆくことだけが成長ではありません。
限られたマーケットの中でのシェアを伸ばしてゆくという考え方です。

マーケットとは、市場全体が成長している時よりも、成長がストップして停滞した時こそチャンスといえます。
シェア拡大の戦略を徹底することで、小さなマーケットでも一番になることはできます。
「小さくても一番」という言葉があります。
とにかくその業界で一番になれ!ということです。
そして一番になるまで、余計なものをそぎ落とせということです。

たとえ話で、中華料理店をオープンしたとします。
でも既に数多くの中華料理店は存在し差別化ができません。
そんな時、餃子に注目して餃子専門店にします。さらに餃子の種類を極端に増やします。
餃子だけで1000種のメニューをつくります。既にそんな餃子店はありません。
さらに餃子は生で提供され、客席で自分たちの目の前で焼くことができます。焼くのに自信がなければ店員さんがやってきて手伝ってくれます。
ここまで絞り込んで特化してくると、もうそんな餃子店は他には有りません。
他にないとなると、お客様の頭の中にインプットされます。
成長の要素は、拡大だけではなく、停滞や収縮というネガティブの中にも存在します。

ある大手紳士服の企業で、全国展開している会社があります。
この会社は新店舗を出すとき、人口の少ない田舎の小さな町を選びます。
こんな小さな過疎の町には、紳士服店なんて一店舗あれば十分!という場所を狙っているのです。
この企業が最初に進出して店舗を出せば、小さくても一番!で利益を上げると思います。
そして競争相手があとから、この地区に進出してきてもこの小さな町で二店舗を維持することは不可能。
そうなると競争相手も、怖くて思い切って進出はできないものなのです。
結局、最初に進出した企業の独占ということになります。
これも見方を変えればフラスコ産業といえるのではないでしょうか?

フラスコ産業を狙うと、地味で成長性もそんなに無いかも知れませんが、はっきりとしたニーズを掴み、安定しているという点では立派な経営手腕だと思います。
ここで最も大切なものは、明確なコンセプトづくりといえるかと思います。
利用者が、生産者から出されるメッセージが明確に理解できること・・・というのはとても大切なことだと思います。
企業のコンセプトというものが、一番の代表的な「企業理念」です。
日頃、企業理念というのは、あまり関心も薄く、気に止めていないかも知れませんが、これはもっとも重要なことなのです。
会社を創業する時には、商品やサービスを考える前に、この企業理念を決めなければならないともいわれるほどです。
企業理念とはその会社のフィロソフィーです。
そしてそれを言葉で表現したものが企業理念です。
この企業理念は「意思決定のものさし」といえます。
何かの経営の決断をしなければならない時、それをやるべきか、やめるべきか?この判断の答えがすべて経営理念の中に詰まっています。
この経営理念にそって判断するだけです。
仕事が順調な時は、経営理念は引き出しの中に片づけておいても良いくらいです。
しかし、一旦ピンチになった時、この経営理念が役に立ちます。
前述のフラスコ産業もこの経営理念に則っていれば何の不安もありません。
目の前に何か大きな問題が立ちはだかったとき、その前線にいる従業員は不安です。
どういう方向に進むか分からないからです。
この時に、トップの社長の考え方が明確で、経営理念が示されている時「きっと社長はこう判断するに違いない。」
と従業員は理解してくれます。
取引先はお客様も同じだと思います。