新・内海新聞 69号

壷の論理とひょうたんの論理

私の友人にKLAB(クラブ:東京証券市場一部上場)の創業者の真田哲弥さんがいる。
今から25年以上前の出会いになります。
彼がまだ関西学院大学3回生でした。
すでに彼はビジネスをはじめていて立派な会社を経営していました。
ある時、彼は「壷の論理」という話をしてくれました。

当時、学生ベンチャーと言えば学生相手のビジネスがほとんどでした。
リクルーティング企画、パーティー企画、スキーツアー等の旅行代理店、アルバイト斡旋、学生相手のマーケティングリサーチなど・・・。
これらの事業の問題点は学生集めで皆苦労していました。

この学生を集めるための心理学が「壷の論理」でした。
この論理はグラフに描くとよくわかります。

Y軸の縦軸とX軸の横軸が十の字にクロスしています。
縦軸のY軸が学年です。
上から下にかけて1年生、2年生、3年生、4年生と4区分します。
横軸のX軸が左右に右側を男子のニーズ、左側を女子のニーズとします。

男女とも入学当初の1年生の5月くらいまでは大学生生活をどう過ごすかとか、どんなサークルに入ろうかとか、学園生活の事で頭がいっぱいです。
ところが6月以降は大学にも慣れてきてそれぞれ自分の興味のある事に集中し、見ている方向がバラバラになりニーズが広がります。
これが3年生の10月頃の学園祭まで続きます。
そこには既に就職活動を終えた4年生が後輩を訪ねてやってきます。
そして厳しい就職活動の情報に触れる事になります。
それ以降、ほとんどの人が一斉に就職活動で頭がいっぱいになり、就活というニーズに収束します。
これをグラフにあらわすと、1年生の頃は学園生活の事ばかり考えニーズが狭くなり、上級生になるごとにそのニーズは左右に広がり、様々な事に興味を持ち始めます。
3年生の10月以降、再び就職にニーズが収束します。
このニーズ曲線をグラフに表すと最初は狭く、やがて左右に広がり、そして再び狭くなります。
ちょうど壷の形になります。
ニーズが収束した部分は、皆が一斉に同じことを考える時期といえます。
この壷の下の部分のニーズの収束した就職のところでビジネスに成功したのがリクルートといえます。
つまり、学生を集めるには、このニーズが収束した時期が最も効率的ということになります。
もう一つのニーズの収束時期は入学直後ということになります。
という話を真田さんは私にしてくれました。

私は思いました。
であれば社会人も同じではないか?
大学を出て入社直後は会社の仕事を早く覚えようと社内の情報に頭の中がいっぱいになり、ニーズは収束します。
しかし、5月を過ぎると社会人にも慣れてきて、様々なことに興味を持つ余裕がでてきます。
つまりグラフのニーズは膨らみます。
これが入社5年目の27歳ころまで続きます。
27歳ころには仕事も覚え、自分の将来も見えてきて不安が出始めます。
自分以外の人も同じように悩んでいるのだろうか?
と社外の勉強会や交流会に参加し始めます。
転職にも興味を持ちますが、自分から行動を起こすほど勇気はありません。
つまりニーズの曲線は収束し萎みます。
その後、家庭を持ったり、子供ができたりでニーズが再び広がり、曲線は膨らみます。
これが50歳ころまで続き、そのころには定年や第二の人生を考え始め、ニーズ曲線は萎みます。
この曲線が最初は狭く、やがて一回目の膨らみがあり、27歳で萎みまた膨れ始め、50歳を過ぎて再び萎み始める。
それがちょうどひょうたんの形になるので、私はこれを「ひょうたんの論理」と名付けました。

これらの考え方は一言で言うと、人は一斉に同じことを考える時期が何度かある・・・ということになります。
この一斉に同じことを考える時期に、その考えている情報を与えてあげれば人は集めやすいということになります。

ハレの日マーケティング

以前、ご紹介したハレの日マーケティングは、前述の壺の論理とひょうたんの論理がきっかけで生まれています。
「人は一斉に同じことを考える時期がある。」
学生時代に2回、社会人になって3回のニーズの収束が起こるわけですが、長い人生で、別の視点から同じことを考える時期は他にないのか?と考えてみました。
その時に浮かんだのが7回の節目でした。
一つ目が「子供の誕生」です。
この場合親の目線で考えます。
きっと生まれてくる子供の「健康」だけを願っています。
次にこの子供が成長して訪れる節目が「受験」です。
親も本人も「合格」という思いで集中します。

その次が「就職」です。
ここは当然「内定」ということで思いは一つです。
そして社会人になって次にくる節目は「結婚」となります。
これは結婚生活ではなくて、「結婚披露宴」です。
披露することへの思いでいっぱいになります。

5つ目が「住宅」です。
ここの住宅のニーズは「家族」です。
6番目が「定年」です。
当然このときは「第二の人生」に集中するということになります。
そして、最後の7番目が「葬式」です。
人生の記録や生きてきた証というようなところにニーズが収束します。
この7つの節目をよく見てみると、確かにそのニーズに沿って同じことを考え、よく似た行動を起こします。
そして、この7つの節目はすべて「ハレの日」であることに気付きます。

「ハレの日」つまりご祝儀がでる時です。
お祝い時ということになります。
「ハレの日」とは、「非日常」という意味です。
滅多にない善き日で、ご祝儀袋がでます。
文房具店に並べてあるご祝儀袋の種類が、このタイミングということであり、値切られることはありません。
むしろ切り上げたり多めに振舞ったりします。
つまり、この時期のニーズを掴み、それに沿ったマーケティングをすればヒット率が上がるということになります。
人生における「ハレの日マーケティング」とそのそれぞれの時期にあるおめでたい行事、つまりハレの日が重なると、その購買動機は一層加速します。
たとえば、祭りや、記念日。
国家的な行事でいえば、オリンピック開催やスポーツ大会。
子供の運動会などもそうかもしれません。
ハレの日の相乗効果で購買動機が加速します。
ここでハレの日はなぜ景気が良くなるかを分析してみると、日本は昔から農耕民族でした。
仕事は朝から晩まで鍬をもって土を耕すこと。
毎年毎年同じことの繰り返しです。
同じことを繰り返しているとだんだん退屈になっていきます。
その退屈な日常にメリハリを加えるためにいろいろなお祝いごとがあります。
お正月やお盆、村祭りや収穫祭、結婚式やひな祭りなどなど。
日頃が退屈な毎日ですので、このハレの日の時ぐらいは、大きな気持でパーといこう!
みたいな心理になります。
大盤振る舞いです。
つまり値切ったりすると縁起が悪いという心理になります。
そんな昔の日本の伝統が、今も日本人の心のどこかに生き続けているのかもしれません。
昔のような農耕民族ではなくなりましたが、やはり生活の中にいくつもの「ハレの日」が生き続けています。