新・内海新聞 68号

ノウハウの伝達速度はその距離に反比例する
情報伝達速度の法則

10年ほど前にCTIフェアというコンピューター関連の展示会がサンフランシスコで開催され、それに参加した事があります。
主催は「フェア・アイザック」という会社です。
サンフランシスコ市内の多くのホテルを借り切っての大きなコンベンションでした。
そのフェア・アイザックには、ノーベル経済賞を受賞した博士が2名いて、その博士の基調講演が行われました。
その内容は非常に興味深いものでした。
それはこんな内容でした。

世界的に有名なコピー機メーカーがフェア・アイザックの製品を導入する事になったのです。
そのコピー機メーカーは、社内で早く浸透させる為に、あるキャンペーンを企画します。

これから1年間の間に、導入した新システムを使って優秀な成績をおさめたものを表彰するというものでした。
そのキャンペーンは全社的に開催されました。
その1年後、成績が集計され順位がでました。
第一位の人は、カウボーイというニックネームの男性で飛び抜けて優秀な成績でした。

この社員はカウボーイと言われるだけあって、自分勝手でワンマンな性格でしたが成績は優秀でした。
しかし、このカウボーイは、一切新システムを使わず、昔ながらの方法でトップの成績を収めたのです。
審査員の人たちは「カウボーイのすることだから仕方ない。彼は除外しよう。」ということになり、次の成績優秀な社員を探しました。
第二位になったのは女性社員でした。
彼女もダントツの成績。
しかし、彼女もやはり新システムを使っていませんでした。
そして、第三位の成績優秀な社員も女性でした。
しかし、彼女もまた新システムを使ってはいなかったのです。
ようやく第四位の成績の社員から新システムを使っていたのです。

「いったいこれはどういうことなのだろう?」

審査委員会がカウボーイから第三位までの女性を調査した結果、驚くべき事実が発見されたのです。
この第二位と第三位の女性は、カウボーイの両隣に席があったのです。
彼女達は、カウボーイの仕事の要領を見て真似ていたのです。

講演したノーベル賞学者がこう言いました。
「ノウハウの伝達速度は、その距離の二乗に反比例する。
F=1/(R・R)
つまりノウハウと言うのはその人に近づけば近づくほど早く伝わるものなのだ。
それが証明された。」と。

また、別の事例が日本にある、そういいました。
「え、日本?!」
日本のある製薬メーカーでの話です。

このメーカーはある年、新薬の開発に失敗し、売上的に大きなピンチを招きました。
この会社にはとても優秀な営業マンが10名いました。
この10名が売上の重要な部分を担っています。
社長は、システム開発役員に命じました。
この10名の営業ノウハウをコンピューターに入力し、だれでも優れた成績をおさめられるようにしてほしい、と。

システム担当者は言いました。
「社長、それは無理です。
なぜならその営業ノウハウはそれぞれの頭の中にあり、それをコンピューター化することは不可能です。」
社長は困りました。
このままでは売上が上がらずに赤字になってしまう。

社長は一計を案じました。
この優秀な10名の営業マンを営業職から外し、人事部に異動させたのです。
そして新たなミッションを与えました。
そのミッションとは、10名が手分けして、全国の支店営業所を訪問し、現地の営業マンと毎日飲み会を開くというものでした。
なんとも突飛なミッションに戸惑いながらもそれは実行されました。

そんなミッションが進められてから6ヶ月もしたころ、新潟の営業所のある営業マンが上司にこう言いました。
「課長、僕・・・なんか売れるような気がしてきました。」

そういってから彼の営業成績はぐんぐんと伸び、ついに日本一となりました。
そして同様の現象が全国のあちこちで起こり始めたのです。
これはいったいどういうことでしょう。

ノーベル賞学者はこう続けました。

「本来であれば、その優秀な営業マンの営業ノウハウをマニュアル化して全社員に共有すればよいのだろうけれど、それだけではノウハウというものは伝わらない。
あうんの呼吸というものがある。
これをマニュアル化する事はできないし、ましてプログラムにおとす事も不可能です。
この10名の営業マンは毎日地方の営業マンと飲み会をして騒いでいただけではないのです。
おそらく彼らが経験した成功事例、失敗事例を物語のように自然に語ったであろう。
地方の営業マン達も雲の上の存在のようなトップ営業マンの武勇伝を聞きたかったに違いない。
膝を付き合わして、その貴重な話を直接聞ける事ほど素晴らしい事はない。
自分たちが体験した事の無い裏話が聞けたことでしょう。
自分たちの悩みも話し合えたでしょう。
そして、その距離が近づけば近づくほど、そのトップ営業マンのノウハウの伝達速度は加速するのだという証明です。」

私はその話を聞いて(あれっ?!)と思いました。
大変高価な営業のコンピューターシステムを販売している企業の顧問の言うべき事ではないなとは思いました。

しかし、そのノーベル賞学者は最後にこう結びました。

「確かに、優秀な営業マンの隣にいればノウハウの伝達速度は加速するかもしれない。
しかし、考えてみて下さい。
全社員を優秀な社員の隣の席に座らせる事など不可能なのです。
当社、フェア・アイザックの優秀なシステムをご検討下さい。」
・・・と。