新・内海新聞 67号

風工房のイチゴケーキ

そもそも、この物語の始まりは高知県の中土佐町という田舎町から始まります。
ここに「苺倶楽部」という村の女性達6人で組織する農業組合法人があり、そしてその法人が経営するケーキショップ「風工房」というお店があります。

地元では行列のできる店として有名です。
中土佐町は人口8000人の小さな町です。
鰹の一本釣りで有名な町でもありますが、今回の主役はその町でイチゴ栽培をしている農家です。
イチゴ栽培は形・色・大きさを揃えて市場に出しますが、どうしても農協で扱ってもらえない規格外のイチゴが出てしまう。

そこで、自分たちが丹誠込めて作ったイチゴに少しでも付加価値を付けてみんなに食べてもらいたい、とジャムやゼリーを作り始めた事が事の始まりです。

ここのイチゴ栽培は、鰹のアラを肥料にして土に混ぜるため、非常に甘いイチゴができるのだそうです。
しかし、ジャムやゼリーを作るものの余り売れ行きは芳しくない。
何かイチゴを使って美味しいスイーツはできないものかと苺倶楽部の女性達が探しまわったところ、
たまたま訪れたホテルのケーキを食べてあまりの美味しさに驚きました。

そのケーキを作ったのはレシピ開発の天才、大原一郎さんでした。

これが運命の出会いとなります。
女性達は、是非我々のためにメニューを考えてほしいと頼み込み、承諾を得るのでした。
大阪から高知まで毎月来てもらい、農作業が終わってから夜の10時までケーキを焼き続けます。
なかなかうまく作れない。
そんな生活が一年ほど続きました。

「皆、家の事をやりくりするのに大変でしたが、それでも誰一人欠席する人はいませんでした。」
とある女性は当時の事を振り返る。
出席率100%なのです。
ケーキづくりに関しては全員が素人。
余計な経験や知恵がない分、素直に吸収できた。
しかし、周囲からは「百姓が作ったケーキなんぞ誰が食べるか。」「どうせ一年で潰れる。」

そんな中傷が彼女達の反骨心をかき立てた。

ここでしか食べられないケーキを!ということで「朝摘みイチゴケーキ」を目指しました。
日本中の有名パティシエが作るおいしいケーキでも、そのイチゴは何日も前に摘まれたもの。
ここでは今まさに摘まれた完熟イチゴで香りがすごい。
そして1997年11月15日、いよいよオープン!
オープンと同時に人が詰めかけ、材料のイチゴがなくなり、畑まで急いで収穫に行かねばならなくなるほどでした。
目が回る忙しさ。
そして初年度の売上は8000万円を超えました。
そして現在も年商8000万円を維持しています。
土佐弁で勝ち気な女性を「ハチキン」といいますが、この苺倶楽部の女性達はまさに土佐のスーパーウーマン「ハチキン」そのものです。

 

「小さくても一番!」No.1戦略

事業を興すときに一番大切な事は、スピードと集中化です。
最初は資金も時間も限られている中で、効率化を考える必要があります。
特に後発の場合、先発と同じ事をやっていたのでは、差別化できないし追い越す事はできない。
後発がすべき事は、先発ができないニッチを探し出し、その部分に集中していくことが重要です。

その方法は、日本一になるまで余分な部分を削ぎ落としていくことです。

例えば、お花屋さんを例にとって考えてみます。
街でお花屋さんを開店したとしても、さして珍しくはなく他のお花屋さんの中に埋没してしまいます。
そこで「小さくても一番!」というNo.1戦略を導入してみる。
一番になるまで余計なものを削ぎ落としていくのです。

まず、お花屋さんでも、普通の花は扱わない。
赤い花だけを扱うお花屋さんにしてみる。
店の中は赤い花で一杯です。
街を行き交う人はきっとこう呼ぶに違いない。
「赤いお花屋さん」。

次に、赤い花でも「赤いバラの花」だけを扱うようにする。
もう店の中はバラの花の香りで一杯です。
店内は目も眩むような程に真っ赤です。
街を行き交う人たちは、「赤いバラの花屋さん」と呼ぶようになります。

次に、赤いバラの花は売りますが、1本では売りません。
100本単位のバラの花束でしか売りません。
街を行き交う人たちは「赤いバラの花束屋さん」と呼ぶようになります。
さらにこのお店では店中赤いバラで一杯ですが、お店では売りません。
このお店では見るだけです。販売はすべてインターネットで行います。
誰かへのプレゼントでバラの花束を贈る事ができます。
こうなると、もうただのお花屋さんではありません。
街の中の小さなお花屋さんが、領域をどんどん絞り込んでいった結果、「バラの花束ならあのお店だ!」と人の記憶の中に刷り込まれます。
そして、その注文はインターネットを通じて全国から寄せられる事になります。

街の小さなお花屋さんですが、赤いバラの花束専門に扱うお花屋さんとしては、このお店が唯一であり、「小さくても一番!」です。
あれもこれもと拡大してゆくのは、事業領域が広がって良いように思えるのですが、お客様側からみれば、いったい何のお店か判らなくなり、またこのお店はこれが特徴という差別化のポイントが見えなくなってしまいます。
「当店は他とはここが違いますよ!」という事が一目で判らなければなりません。

 

「赤いバラの花束屋さん」は既に普通のお花屋さんではなく、人に自分の気持ちを赤いバラの花束に託して贈るコミュニケーション産業として全く新しい領域を獲得したといえます。
「小さくても一番!」大切な戦略です。