新・内海新聞 57号

先日、こんな話を聞きました。「カマスの餌付け」という話です。これはある水産試験場での実験の実話です。ある生簀に大量のカマスを飼育していました。カマスはサメよりも危険な魚で貪欲な肉食魚です。この生簀に毎日決まった時間に餌を撒いていました。カマスはわれ先にと餌に食いついてきます。

この餌付けに慣れた頃、生簀に透明なアクリルの蓋をしました。そして同様に餌を撒いたのです。カマスはわれ先にといわしに食いつきますが、アクリル板があるために鼻っ柱を打ち付けて餌に有り付けません。やがて、カマスはアクリル板をはずして餌を撒いても寄りつかなくなりました。しかし、あることをしたら再び食いつくようになったのです。

それは、何も知らない新人のカマスを一匹放流しただけです。餌に食らい付く新人カマスを見て再び本能が目覚めたのです。やはりどのような組織でも、新人の先入観のないチャレンジ精神は組織を活性化するものです。人間の社会でも同様なのかも知れないと、深く考えさせられる話でした。

就職戦線異常有り

就職難という言葉を耳にしてから久しい。就職内定率低下、有効求人倍率ゼロを割り込む、超就職氷河期などなど、寒気がする見出しを新聞雑誌で目にする。しかし、昨年暮れから、この状況に変化が見られ始めている。もともと人材会社で人材新規事業を担当し、自らも人材会社を経営していた故か、敏感に反応してしまう。

果たして、2013年卒業の新卒学生市場はどうなっているのでしょうか?
一言で言うと「人材不足」。何をしても学生が訪問してこない状況が続いている。これには、様々な要因が重なります。まず、経団連が昨年発表した新卒採用の倫理規定。

12月1日まで企業は学生と接触してはならないというもの。これまでだったら、夏ごろから学生向けのセミナーやOB訪問などが頻繁に行われていた。学生も企業もじっくりと研究する時間があったが、今年はそうは行かない。12月1日にいっせいに企業からのDMやネットでのエントリー受付が始まるので、大量の企業情報が一気に学生のところに押し寄せる。

学生は、そんな大量の企業情報から、自分にふさわしい企業を選びきれない。企業研究が出来ていないからです。結局、知名度の高い、或いは企業規模の大きな大企業を中心にエントリーを始める。

学生も、大学就職課も父兄も、これまでの就職難というイメージが頭の中に妬きついていることと、不景気に対応して安定志向が強いことなどから、なるべくならまずは大企業からエントリーするという志向になってしまう。12月にエントリー受付が始まってもすぐに年末になり、活動は一時中断。年明けの1月中旬から再び始まるが、様々な学生と大企業のやり取りの中で、その作業ばかりに時間が取られ、新規の新興企業や中堅企業へのエントリーやアプローチが遅れてしまう。

そして、4月から一斉に企業説明会が始まり、この企業説明会が終了するまで各企業はエントリー学生を手放さないため、集まらない企業には全く学生の訪問がない。5000名の従業員の規模の企業で企業セミナーの参加率は70%以下、100名規模の企業の場合は30%以下という惨憺たる結果です。
100名規模の企業セミナーを3回予定していたある優良企業は30名ほど集まったセミナー1回だけ開催して、後は中止してしまった。このような状態が続いている。

しかし、大企業は5月上旬から中旬にかけて内々定を発表するので、5月下旬から6月以降に、枠に入れなかった学生が大量に溢れ出す。しかも、政府が卒業後3年間は新卒とみなすような発表をしているので、2012年卒業の学生も混ざって大混乱している。

これまで、時間の無さから何も企業研究をしていなかった学生は、6月に1から企業研究、企業エントリーを始めることになります。かなり、熱が冷めた学生と、間延びしてしまった採用活動の中での人事部と双方で、かなりの疲労感が漂います。つまり、構造的なミスマッチが起こっていると言えます。
これは来年度以降も続くものと思われます一方人事部自身も人材不足という経験をしたことが無いので、その採用ノウハウというものが人事部の中にありません。かつての企業ごとの採用実績はなくなってしまっていて、採用メディア会社の評価しか出来なくなっています。

エントリーの学生数が少ない時にはどうするか?エントリーした学生を企業説明会に確実に呼び込むにはどうするか?企業説明会に参加した学生に内定を出すタイミングはどうなのか?内定を出した学生が、断ってこないようにするにはどういう手立てを売っていくのか?などなどの人事部としての採用ノウハウは、もう殆ど企業内に残っていないのが現状です。

この状況は、今から25年前の採用状況に大変似ていると言えます。当時はバブル経済の真っ只中であり、これまで円高不況の中で新卒採用を何年間も中止してきた重厚長大企業が一斉に採用を再開した時期で、同様に人事部内には採用ノウハウは消失していた時期でもあります。こういう時期にこそ、そのような溝を埋め、人事部や大学生の就職活動を支援するベンチャー企業が誕生する絶好のチャンスでもあります。私が起業したのもちょうどこの頃でした。そして新卒採用支援のBPO(ビジネスプロセッシングアウトソーシング)という新分野への参入でもありました。

 

学生至上主義ですよ!(1)

この様な、余剰人員の削減という円高不況から一気にバブルの人材不足に突入した時の状況はすさまじかったです。特に新卒採用分野の予算もうなぎのぼりで1億円~3億円も求人広告予算を取り、それ以外にも多くのお金が使われました。慶應義塾大学の新卒学生を一人採用するための予算がだいたい800万円だったと思います。

「わが社に入社していただけたらトヨタのクラウンを一台差し上げます。」とか「一軒、新築の一戸建て住宅を差し上げます。」というようなPRも始まったのを覚えています。そんな時、私は企業の人事部に対して飛び込み営業を続けていました。人材不足の状況の中で、採用支援会社だというと殆どの人事部は会って話を聞いてくれました。様々な提案を行い、新企画の採用を営業しましたが、もう雨後のたけのこのように同様の会社が誕生し、非常に厳しい状況でもありました。

如何に人事部に気に入ってもらって、企画を発注してもらえるのか?そんなことばかりを考えての営業でした。しかし、その人事部自体にも採用ノウハウは無く、こんなのがあればいいなぁというアイデアレベルのヒントをもらい、急遽それに合わせた規格を作り提案に行く・・・という付け焼刃的営業になってしまいます。結局、そんな企画は学生の反応も悪く、使ってみたけどだめだったということになってしまいます。そんな時、当社でアルバイトをしてくれていた立教大学の女子大生がいました。彼女は早々に外資系金融機関に内定を決めて、私の事業を手伝ってくれていました。彼女と一緒に人事部に営業にも行きました。今日も空振りの気配濃厚のある日、彼女は私にこんな事を言ってくれました。

「社長はたぶん間違っていると思います。考え方を変えればきっと売れていくと思いますよ。」

「ほう、それはどんなところが間違っているの?」

「はい、今、学生と人事部の間に社長はいますよね。それは、学生か人事部、どちらの方向を見て立っていますか?私には、人事部を背にして学生を見ている構造に感じてしまいます。つまり、学生から見れば社長も人事部も一緒です。
社長からすれば人事部の意向は聞くが、学生の気持ちは全く判っていないということです。もしも、学生側に付いて、学生の意見を人事部に伝える考え方に変えれば、きっと日本中の学生は社長についてくるとい思いますよ。学生を味方につけることができれば、黙っていても人事部は社長に従うはずです。学生至上主義です。」

私は、頭をガーンと殴られたような感じでした。その日から、人事部周りは中止し、就職活動中の大学生と会っていろいろ問題点や要望を聞きだすことにしました。何日間もそんなヒアリングをつづけている内に、大きなヒントが見つかりました。それは、まさに起死回生の大ヒントでした。

学生至上主義ですよ!(2)

発見された問題点はこんなことでした。就職活動中の学生は企業訪問し、説明会やセミナーに参加します。説明会の内容はどこもその会社の優位性ばかり、またセミナーに参加してもゲストスピーカー、例えばプロ野球選手OBや作家や経済評論家などの、その会社には全く関係ない話を聞かされて、最後に簡単に企業説明が行われる。
就職活動中の学生たちの声は以下の様なものでした。

それは「企業の本音が知りたい。そこにどんな世界があり、良い面ばかりでない、問題点や課題。またどんな人たちが働いていて、毎日どんなことが行われているのか?その姿は、すなわち自分の数年後の姿でもある訳です。そんな声を直接聞いてみたい。」聞いてみると、確かにその通りだと思いました。

日常で買い物をする時も、ただコマーシャルを見ただけで買うことはしない。それが高額なものであればあるほど、実際のものを見に行って自分の目で確かめたり、既に使っている方々の声を聞いたり、試供品を使ってみたり・・・・、そういうことを普通にやっています。

しかし、就職という人生最大の買い物で、何も見ないで広告や企業の一方的は声だけで決めるのは、確かに不自然です。人事部側にとっても同様です。一人の採用は、定年退職まで考えると数億円の投資になります。それを数回の面接だけで決めても良いのだろうか?数名の学生たちと毎日ディスカッションしました。いったい何があれば就職活動する学生たちが助かるのか?そんな時、ふと言った独り言が、新商品誕生のきっかけになります。

「電話帳はどうかな?各企業の内線電話帳!それがあれば学生が直接自分が話を聞きたい先輩社員と直接連絡が取れるはず。会社概要なんかは他の情報誌に一杯載ってるので掲載
する必要は無い。」

「それいいね!例えばその先輩の出身大学名とか学部やゼミ名、所属サークルとか、簡単な自己紹介とかのコメントが少し載ってれば嬉しい。」

「それ、いけるかも!!」

私はすぐに企画書を作りました。「就職OBガイド」これを各企業ごとに受注して企業版として製作します。16ページくらいのタブロイド版です。カラー版とモノクロ版の2種類作って価格を分けました。この小冊子をターゲットとする学生宅に郵送する仕掛けです。すぐに営業に行きました。すぐに反応がありました。鉄鋼会社2社、外資系銀行2社、不動産会社2社。

合計5000万円以上。

まさに起死回生でした。学生からの反応も非常によく、企業からも大変好評でした。学生至上主義。一体、顧客とは誰なのか?これを考えることの重要性を痛感する事件でもありました。