新・内海新聞 56号

最近、塩麹に凝っています。これは何でも使えると重宝しています。もともと麹を保存するために塩を入れただけで、麹自体にアミラーゼという消化酵素が含まれているらしいです。アミラーゼは、唾液に含まれる消化酵素ででんぷんを分解しアミロースという糖に変える事から甘く感じます。

最近、「アスパラの塩麹味噌胡麻和え」を作りました。アスパラの根っこの皮をむき、5センチ大に斜めに切り、2分30秒熱湯で湯がきます。これをざるにあげて冷水で一気に冷やします。一方ボールに塩麹小匙1杯、みりん小匙1杯、味噌小匙1杯、すりゴマ小匙2杯を入れてよくかき混ぜます。このボールに先ほどの冷ましたアスパラを入れて良く和えます。これで出来上がりの5分で出来る簡単レシピですが、お酒のおつまみには最適のメニューです。塩麹恐るべしです。

奇跡の教室

最近また「奇跡の教室」と「銀の匙」を読み直しています。「奇跡の教室」は、私の地元の進学校である灘校に実在した
伝説の国語教師、橋本武先生の話です。現在101歳でご健在です。

この橋本武先生のあだ名は「エチ先生」。橋本先生が灘校に着任した頃、話題になっていたエチオピアの皇太子に風貌が似ていたことから、生徒たちがエチ先生とあだ名をつけたのが始まりだそうです。橋本先生ご自身が自分の学生時代を振り返ったとき、先生や友人の印象や思い出はあるのに、肝心の授業のことなど殆ど覚えていないことに愕然とします。

あれだけ時間をかけたのに何も覚えていない。自分の授業もきっとそうに違いない。そう感じられたエチ先生は、たった一冊の文庫本を3年間かけてじっくりじっくり読んでいく「味読」という手法を考え出します。そのスローリーディング(大物一点豪華主義)の前代未聞の方法で、灘校生たちはのびのびと育っていくことになります。灘校の教育方法はユニークで、中高一貫6年教育で、担任は6年間同じで変わりません。次回、同じ先生に担任になってもらうには7年後ということになります。

私の通っていた小学校は公立でありながら超進学校で、数多くの私立名門中学に合格者を出していました。そのトップである灘校にも毎年20名近くの合格者を出していました。ちょうど私の年代に灘校に合格した人たちが偶然にもエチ先生の学年だったようです。

さて、その3年間一冊の文庫本を深く深く読んでいくのですが、その選らばれた文庫本が、中勘助の「銀の匙」という本です。中勘助は、夏目漱石の弟子に当たり銀の匙は自伝的な散文です。生まれつき体の弱かった中勘助は、いつも叔母の背中に背負われて暮らしていました。母親も産後の肥立ちが悪く寝込んでいることが多かったので、叔母が母親代わりをしていました。叔母の背中越しに、しかも叔母と同じ、すなわち大人の目線で社会を眺めていた中勘助には独特の観察力が出来たのだと思います。

一気に読んでしまえば多分一日で読み終えてしまうであろう銀の匙を3年間かけてじっくり読み込んでいったそうです。もちろん、一回の授業では。1.2ページしか進まないのですが、その話はどんどん横道にそれます。エチ先生は、中勘助の子供の頃に叔母の背中で体験したことを灘校の生徒たちにも「追体験」させようと考えられました。魚偏の漢字が出てくると、魚という文字が付く漢字を678個探してプリントに書いていく・・・であったり、干支の話が出てくると、干支の由来やあわせて十干と合わせて60個の組合せと地名などとの関係性を説いていきます。生徒たちは、それから町の中にある神社や寺の名前、地名などにそれぞれ意味があることに気付き、その興味は無限に広がっていきます。

中勘助が駄菓子屋に行くシーンでは、その駄菓子屋に売っていたものと同じ駄菓子を生徒の人数分買ってきて配り、あめをなめながら先生の朗読を聞く。想像するだけでワクワクしてしまいます。エチ先生はこう言われています。

「個性とは、持続する関心だと定義できる。」まさに言い得て妙です。

個性という意味をこれほどまでに的確に表現したのは初めて出会いました。 こんな横道授業に育った生徒は、じっくり物事を考える人間に育っていきます。現神奈川県知事の黒岩祐治さん、日本弁護士連合第36代事務総長の海渡雄一さん、東京大学第29代総長の濱田純一さん、最高裁判所第23代事務総長の山崎敏充さんといった卒業生が誕生します。

昭和43年には東京大学合格者数132名(内、現役112名)で遂に日本一となる。一学年200名の灘校として112名の現役合格者数は郡を抜いています。エチ先生はこう言われています。「スピードが大切なんじゃない。すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる。何でもいい。少しでも興味を持ったことから気持ちを起こしていって掘り下げていって欲しい。」 もちろん「銀の匙」が素晴らしいから出来た授業でもあります。

クレームの定義と村民食堂(1)

クレームの定義という考えがあります。クレーム(claim)すなわり要求です。本来は苦情という意味で使われがちですが違います。このクレームの定義とは「約束と結果の差分の要求」と理解しました。

本来、ある約束をします。当然それは当初の約束ですので100%です。その結果、残念なことに90%しか達成できなかったとします。当然、依頼主は約束は100%だったのに90%しか納品されていないことに対して「10%足りないよ。すぐにこの差分を補って欲しい。」という要求がきます。この要求こそがクレームとなります。すなわち、約束と結果の差分の要求です。

例を挙げると、百円のお釣りの時に九十円しか渡さなかった。その時相手から10円お釣りが足りないよと要求されています。この時に「すみません」と言って10円追加してお釣りを渡した時、相手の方は「なんて正直な良い人なんだろうか!」と感心するだろうか?きっと「計算も出来ないのかな?」と不安になるだけと推測できます。この時、10円返すのは当たり前ですが、さらに+αをつけてお返しすることです。これには相手も驚きます。「何もそこまでしなくとも・・・」と恐縮されるくらいの+αが必要です。ここまで出来たときに「顧客満足」が生まれると考えています。この+αを何にするかは、その時のアイデアということになります。

長野県の中軽井沢というところに「星野リゾートというリゾート施設運営会社があります。その星野リゾートの旗艦旅館とし「星のや」がここにあります。ここは食泊分離といって、宿泊代と食事代が分けてあります。通常の旅館のように宿泊すると食事が付いていて食べきれないくらいの料理が出てくるのではなく、自分の好きなものを好きな分量だけ食べられるように宿泊棟と食事棟が分けてあります。

軽井沢には宿泊施設も多いのですが、個人の別荘も数多くあります。たまにしか来ない別荘には食糧のストックも無く、都度かい出さなければなりません。そんな方々のために、星のやの宿泊客でなくても利用できる食堂が「村民食堂」です。村民食堂は比較的安い価格で自由に食事が出来ることかたら地元の方々に主にも人気がありました。そんな村民食堂である事件が起こりました。それは近くの別荘に来られているある老人にまつわる話です。

クレームの定義と村民食堂(2)

この老人は別荘にいる間は、村民食堂に来られて食事するのを大変楽しみにしていました。そして、注文するメニューもいつも同じ。まず焼酎の水割りを飲まれます。その焼酎を飲み終わった頃に天ざるが出てくるという順番で注文されます。この順番もタイミングも同じです。

この日もいつもどおりその老人はやってきました。ホールの担当を呼んでいつも通り「焼酎の水割りとそれが済んだころに天ざるをお願いします。」と注文し、楽しみに待っていました。しかし、その日だけ様子が違っていました。最初に焼酎の水割りが来るはずなのに、焼酎のお湯割が届いたのです。しかも持てないくらいに熱い。老人は店員に言うのも気が引けたのか、その焼酎が冷めるまで待っていました。そうしたら続けて天ざるも届けられたのです。焼酎から頂く順番なので、冷めるまで待って焼酎を飲み、そばの順番になったとき、てんぷらは冷めてしまって油が回り、そばも固まってしまってほぐれません。老人はそれでも黙って食べました。そして勘定の時、いつもと出てくる順番が違うようだがとクレームを言いましたがそのままお帰りになられました。

その夜9時頃になって村民食堂に電話がかかりました。今日来られた老人からでした。電話に出たマネージャーは今日のその事件のことは聞いていませんでした。「君の店にはもう二度と行かない!」とえらい剣幕です。自宅に帰っていろいろ考えていて納得がいかなかったのでしょう。マネージャーは事情を聞きすぐに対応させていただきますと受話器を置きました。今からお詫びに伺うには余りにも時間が遅すぎる。伺うのは明日にして、今晩中に会議をして、今回の原因と対策を取りまとめなければなりません。翌日、マネージャーは厨房の調理人とホール係のスタッフを連れて老人の別荘に訪問しました。「昨日は大変なご迷惑をおかけしました。本日はその謝罪に参りました。」とその事件の経緯と対策を話しました。老人は、そこまでしていただかなくともと恐縮し、自分も少し言い過ぎたところもあったと許してもらえました。

しかし、マネージャーは、「実は本日は調理人とホールスタッフも同行させております。できましたらここで昨日のご注文いただいたメニューをもう一度作らせて頂いて堪能いただきたいと、食器から調理道具や材料をすべてお持ちいたしました。」と切り出しました。老人は驚きました。そこまでしなくとも良いと20分の押し問答の後、キッチンを使って焼酎の水割りと出来立てのてんぷらとざる蕎麦が振舞われました。老人は大満足でした。おそらく、この老人は「驚いたねー、村民食堂というのは・・・。」と友人たちに話すでしょう。

この+αは、全体としては帳尻が合わないのですが、これこそが顧客満足を生み出したことは間違いないと思います。