新・内海新聞 11号

東京大学の惑星科学者である松井孝典先生の学説は非常に面白いです。数多くの著書もあり、いま最もノーベル賞に近いといわれている物理学者でもあります。その先生の学説で「おばあさん進化説」があります。(月刊『自然と人間』2003年2月号)。

人類のおばあさんだけが生殖年齢を超えても生存し、しかも現役。そのおばあさんが集団の記憶装置の役割を果たすというものです。「おばあちゃんの知恵袋」です。そして、おばあさんから危険を回避するノウハウが集団に伝授され、生存率が高まり、人口が増え文明を築くことができたというものです。サルも生殖後も生存しますが、既に群れから離れ、その経験は集団の中に活かされることはありません。人類のおばあちゃんは偉大なハードディスクといえます。

西澤潤一教授の教育現場視察

先日、友人たちと食事をしていて、教育に関する話題になりました。日本がこれから頭脳立国をめざすのであれば、これからの教育システムは本当に重要になってきます。そんな時、7年前のあるテレビ番組を思い出しました。以前に一度書いたのですが、後日談も含めてもう一度書くことにしました。

2001年の春にNHK-BS1で3日間連続で教育現場の取材番組がありました。現在岩手県立大学学長の工学博士である西澤潤一先生が、アメリカや中国の教育現場の様々な人々の取材をしてゆく番組でした。私は、この番組を偶然見ましたが、大変考えさせられる内容で今も考え続けるテーマを与えてくれました。西澤先生は、アメリカの田舎にある高等学校を視察に行きます。

この高校は全寮制です。そして生徒だけではなく、先生もその校舎とつながっている宿舎に家族で住んでいます。ある人に聞きますと、かつての日本の旧制中学校もこれと同じ全寮制で、先生もその敷地内に住み、校庭の横に畑を耕したりしていたそうです。このアメリカの高校は9クラスあって、毎週金曜日に試験が行われ、成績が悪いと、特別クラスに変わらなければなりません。そこで、さらに成績が悪いと退学です。毎日毎日、猛勉強しなければなりません。

この高校に、ある一人の日本人の女子生徒を発見します。
「あなたは日本人ですね。」
聞いてみると彼女は昨年一年間AFS(アメリカンフィールドサービス)という交換留学生制度を使って、この高校に留学していました。一年間がすぎ、帰国しましたが、彼女は日本の高校を退学し、再びこの高校に留学してきます。西澤教授は不思議に思いました。
「あなたは、なぜ、日本の高校をやめてまで、アメリカのこんなに厳しい学校に編入する気になったのですか?」
彼女は話し始めました。
「私が日本にいたとき、皆、私がどんな女の子かイメージを持っていて、私もその期待に応えるような話しかしなかった・・・。先生が喜ぶような答え・・・両親が気に入るような答えを選んで話していました。そうしたら、いつか私は『私は一体誰?本当の私はこんなじゃない。もっともっと違うことを考えている自分がいるのに・・・』そんなことに気付きはじめたんです。そんな時アメリカのこの高校に留学することになりました。ここで勉強して感じたことは、相手の事を知るために徹底的にみんなで話します。そして、私もみんなの意見を一生懸命に聞きます。そういう時間がたっぷりあります。だから毎日がとても楽しい。毎日の勉強はとっても厳しいけれど、私はこの高校で勉強できることを大変光栄に思います。」と彼女は言いました。

私は、この「光栄に思う」という言葉に大変驚きました。一体、今の日本の中で、自分の高校で学べることを光栄に思っている高校生は何人いるだろうか?西澤先生は質問を続けました。
「あなたは、何のためにこんな猛勉強をするのですか?」
「社会にでて、恥ずかしくない教養を身につけるためです。」
西澤先生は、ためしに他の高校生にも同じ質問をして見ました。するとみんな「教養を身につけるためです。」と応えます。誰一人、一流大学にいくためとか、医者になるためとか、豊かな生活をするためとか言いませんでした。日本に生まれ、17年間日本の教育を受けて育った少女が、たった1年間アメリカに留学しただけで、こんなに生き生きしたキラキラした目に変わっている。ものの考え方とは国民性とか民族性とかに支配されているのではなく、しっかりした教育システムで変わるのかもしれない・・・という事を感じました。

西澤先生は、今度はニューヨークに飛びました。そこでドリアン助川さんというロックミュージシャンに会うためです。彼のアパートを訪ねました。ドリアン助川さんは、日本にいたときは、ミュージシャンでありながらラジオの深夜放送で中学生、高校生たちの人生相談をしていました。
「人生もっと前向きに生きていこうぜ!」
「自分が納得できる人生を歩もう!」
「世の中、そんなに捨てたもんじゃないよ・・・」
彼は、マイクに向って答えていました。でも、ある日気付いちゃったんです。ココでこんなことしている場合じゃないって・・・ドリアン助川さんは話します。
「人生もっと前向きに生きようぜ・・・って言ってる俺は本当に前向きなのか?自分の人生に本当に納得しているのか?世の中そんな捨てたもんじゃないって・・・。今本当に思えるのか?」人を輝かすには、もっともっと自分自身が輝いていなければならない。なぜなら子供達はみんな、先をいく大人の背中を見て育ってゆくものだからです。それで、私は日本での仕事を全部やめて、昔から夢だったこのニューヨークに住んで、英会話学校に通って、英語でロックを歌うバンドを作っています。まず、自分が納得できる人生を選び、自分自身が輝き続けること。それが、今一番しなければいけないことなんだって気がついたんです。」(つづく)

中国の天才少女

(つづき)
もっともっと輝き続けること・・・・・。
さきほどの、女子高校生もこのドリアン助川さんも、自分自身が納得できるように挑戦しています。自分の人生を最初から型にはめたり、妥協したり、無気力になったり・・・そんな人生より、もっともっと一所懸命生きてゆこうとする姿に感銘しました。

西澤教授は、中国に飛びます。中国である少女に会うためです。この少女は、中国全国の中でプログラムコンテストで優勝しました。会ってみると、とても素朴な少女です。

西澤教授は質問しました。素晴らしいプログラムを作られたそうですね?コンピューターは、学校で勉強したのですか?
「はい。学校で習いました。それと・・・父にもらったノートパソコンで家でも一生懸命勉強しました。このパソコンは父の手作りなんです。」
お父さんはエンジニアなのですか?
「いえ、小さなお店のコックをしています。」
西澤教授は、良く理解できない様子です。

そして、差し出されたそのノートパソコンを見て驚きました。段ボールとガムテープでできていたのです。二つ折りの段ボール。画面やキーボードはマジックで書いてあります。彼女は毎日、この段ボールパソコンに指を置いてパソコンを打つ練習をしていたのです。その段ボールパソコンの画面には何も表示されませんが、彼女の頭の中のパソコンの画面には、何千行というプログラムが映し出されているのだと思います。私も心底驚いたのを覚えています。
「これで、やっと優勝商品の本物のノートパソコンがもらえます!」
目をキラキラ輝かせていました。

とにかくお父さんは得体の知れない理解できない人

西澤先生の視察番組は、非常に考えさせられるものがありました。私の友人で、コラムニストの相米周二君がいます。彼は、私がジンテックを創業したころに、日経流通新聞の記者として取材にきたのがきっかけで親しくなりました。

彼は、現在、様々ところでコラムを書いていますが、新幹線でしか買えない「WEDGE(ウェッジ)」という雑誌の中にもコラムを書いています。その「WEDGE(ウェッジ)」に「拝啓オヤジ殿」というコラムを書いています。登場するのは父48歳アパレルメーカー部長。娘17歳高校2年生です。
「お父さんは矛盾だらけの人です。しばらく私はお父さんを無視します。私の意見にちゃんと答えたら態度を改めてもいいっすよ。」からはじまります。
「お父さんは言います。モノは大事にしろ。粗末にするな。まだ使えるだろう。もったいない・・・その通りです。私は簡単に捨てたり買い換えたりしてきたし、貧しい人たちから見たらなんと大バカモノって映るでしょう。
でもお父さん、あなたはモノを大切にしていますか?
そして、あなたの会社ではモノを大切に扱っていますか?
色・デザイン素材・機能の異なる服をつくってるけれど、それって毎年出す必要がありますか?
「もう時代遅れです」調の広告を大々的にPR。洋服って何年も着れるじゃないですか?
時代遅れの服はどうしているの?
貧しい国々の人に送っているという話も聞いた事ないし、リサイクルしているって話も聞いた事がない。そのあたりどうなってんの?
そして、この「時代遅れ」っていう言葉・・・時代に乗り遅れるな、時代に遅れたら損をする。泣きを見る奴は時代に乗り遅れた奴ばかり。勝つ奴は時代に敏感なんだってっていう言い方、気に入らないよな・・・。

お父さんが言う、その「時代」というのは単なる比較だけなんだよ。他人と比較してどうとか、同僚と比較してどうとか、他の会社と比較してどうとか・・・お父さんが部長に昇進した時も、時代を見抜いているからと自慢してたけど、昇進できなかったら時代遅れなわけ?熱心に読んでる本や雑誌は勝ち組がどうの、あの会社のボーナスがどうのと比較した奴ばっかりじゃん。もうお父さんが敷いたレールの上を歩くのはまっぴらご免。お母さんとの結婚もまさか、いろんな女性たちと比較して選んだんじゃないだろうね。愛情とかは二の次三の次で・・・、それが本当だとしたら私は何なの?とにかくお父さんは得体の知れない理解できない人。私の疑問にちゃんと答えてください。」
(ウェッジ2002.02より抜粋)

【西澤潤一教授の教育現場視察】の中にもでてきました。子供達は皆、大人の背中を見て育っていく。自分自身が思いっきり輝いていないと、人を輝かすことなんてできやしない・・・まず四の五の言う前に自分自身が輝く人生を送ること。それが教育の基本であり、スタートなのかもしれません。その言葉が何度も何度も頭の中で響いています・・・・・。